発達障害ライフハック! 「日本一意識の低い自己啓発本」とは?

ビジネス

更新日:2018/10/22

『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(借金玉/KADOKAWA)

 ADHD(=注意欠陥多動性障害)という概念は、近年知名度が格段に上がっているが、簡単に解説を加えておくと、これは「不注意」「多動性」「衝動性」という点に問題がある障害だと(かなりざっくりだが)定義されている。

 よくある症例の具体例を挙げると、例えば、公共料金の支払いを完全に忘れて電気とガスが止まったり(水道だけはかなり待ってくれる)、行きたいお店があっても行列に並べなかったり、唐突に脳(思考)だけが全速力でギュルギュルと回り始めて目の前の作業が完全停止してしまったりなど。ほかの人が難なくできることが困難だったり、もしくは社会に合わせようと物凄いエネルギーを食ってしまい、生きづらいと感じている傾向が大きい。

 そんな発達障害に悩む人々の多くが日々の生活の参考にしている「発達障害就労日誌」というブログがある。その管理人である借金玉さん。彼は自身のADHDの性質に悩まされながらも、社会で生きていくために多くの“ライフハック”を生み出してきた。そんな知恵が詰まった、彼の初の著書『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』(借金玉/KADOKAWA)を本稿ではご紹介させていただきたい。

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■日本一意識の低い自己啓発本

 本書は、上で述べた通り発達障害のある人が人生を乗り越えていくためのライフハック集、即ち人生の攻略本のようなものだ。著者は本書を「日本一意識の低い自己啓発本」だと語る。

世界は「ハイスコア自慢」で満ちています。
まるで、ハイスコアを出すことが人生の目的みたいな気がしてきます。
そんなことはありませんよ。あなたの人生を生きましょう。
僕はもう順位は気にしません、自分のレースを自分のスピードで走ります。
残念ながら人生はまだ続く。やっていきましょう。

 著者のこの言葉に、本書の目指すところのすべてが集約されているように感じられる。その内容は、ADHDの人はもちろんのこと、すべての社会人が参考にできる仕事術だ。

■書類の神隠しを予防せよ! 「バインダーもりもり作戦」

書類は薄くて「大切なときになくなる」という生き物ですので、かばんやノートよりもさらに工夫が必要です。あいつらは基本的に油断したら逃げ出すタイプのやつだと認識してください。(48ページ)

 ここですぐに思いつくのがクリアファイルだが、これは一覧性が低く、とにかく紛失しやすいのだと著者。そこで彼が推すライフハックが「バインダー」。現在進行している仕事の流れごとに書類をそれぞれひとつずつのバインダーにセットすると、管理もかなり楽になるのだという。また、「かばんからバインダーを全部取り出せば、今自分が抱えている仕事の書類の流れが一望できる」というメリットも大きい。

 誰だってそうだが、特に発達障害のあるひとは、「ミスは必ず起こるものだ」と強く認識したほうが良いのだという。「一覧性が低いから紛失する」という感覚で自分の弱点の傾向を理解し、先回りしてその穴を埋めにかかるというこの手法は、かなり幅広く応用できそうだ。

■睡眠障害の結論。「早く薬を貰ってください」

不眠は死に至る病であり、ありとあらゆる精神疾患につながる道だということは強く認識してください。(161ページ)

 これはライフハックというよりは、著者の“忠告”のようなものかもしれないが、実際に睡眠障害に悩まされる発達障害者は多いようだ。

「世の中にはありとあらゆる『朝に強くなるための方法』が出回っていますが、「そんなことは全部わかってる、それでもどうにもならないんだ!」という人は、シンプルに最寄りの心療内科に出向いて、眠るためのお薬を貰って来てください」と著者は語っている。

 本書はそれぞれのライフハックにタイトルが振られており、辞書のように利用することも可能だ。また、全体を通してみると、本書の各々のメソッドの根底には一貫する姿勢や思考回路が潜んでいることがうかがえる。その根底の部分を何となく、感覚的にでも掴むことができれば、自分自身で弱点を補填するための力も自然のうちに向上するのではないかと筆者は感じる。

 そして、「複雑でときに厄介な状況が発生する社会」を生きる、という点はどのひとも同じだ。本書で説かれる技術は、特に発達障害を持たない人でも十分に有益なものであると言えよう。

文=K(稲)