ドアレス生活で不審者侵入待ったなし!「昼逃げ」した一家の絆を描いた物語

暮らし

公開日:2018/9/28

『ほとんど路上生活』(川路智代/小学館)

 最近、災害続きで連日のように避難所生活を余儀なくされる人々の声がニュースで流れる。人間にとって安心できる生活空間というものがいかに重要かを思い知らされるが、もちろんそれは災害時に限った話ではない。『ほとんど路上生活』(川路智代/小学館)で描かれる作者・川路智代氏とその家族は、ギャンブル狂でまるで働かない父親から逃れるために、安心できるはずの「家」から逃げ出した。夜中にひっそりと逃げれば「夜逃げ」だが、父親が留守中の昼間に逃げたので「昼逃げ」なのである。

 逃げ出した作者たちが向かった先は、魚屋を営んでいる叔父のもとだった。家族が住むことになったのは魚屋の宴会場。しかしその建物にはドアがなく、作者の部屋となった場所は外からまる見えだったのである。まさに「路上生活」のような環境で暮らすこととなった作者だが、ここからさらなる試練が次々と襲ってくることに。

 ブルーシートで目隠しをしてはいるが、基本的にドアがない生活。それゆえに入り口から一番近い作者の部屋は、不審者が侵入し放題という恐るべき状況だったのである。まずは作者が寝ているときに、いきなり「聖水」を顔にぶちまけてきた男! 近所一帯で悪さをしていたホームレスだったようで、後に捕まったという。次に作者を自分の娘の名前で呼ぶ「大島さん」。亡くなった娘をずっと捜しているという、近所では有名な人だった。そして極めつきは、知り合いのように部屋に上がりこんだかと思うと、イキナリ練炭を焚いて作者もろとも自殺しようとした「無理心中おじさん」だ! 作者によれば宴会場の周辺には行き場のない人々が多く、ドアのないこの場所はそういった手合いが集まりやすかったのではと分析している。……いや、冷静に分析したところで危険と隣り合わせという事実に変わりないが。

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 しかし、である。そういう場所であったとしても、かつて暮らしていた家よりは全然マシだったのだ。作者たちの母は地主でお金持ちの家に嫁いだが、嫁ぎ先の祖父は傲慢で、母に辛く当たっていた。そして会社の倒産や遺産相続問題などで生活が荒れてくると、作者たち家族に対する暴力はひどくなっていく。母親の精神が自殺を考えるまで追い詰められたとき、祖父が事故で亡くなる。その後、作者たちは父親を残して家から「昼逃げ」したのだった。

 作者の兄はこの状況に対し「あの時ここに昼逃げしてなかったらおれは親父を殺してたし、きっと母さんも自殺してた」と振り返る。そしてドアがなく、至るところで雨漏りのする宴会場に住んでいても「俺たちやっとまともな生活ができてるよ」と母親に語るのだ。この漫画は辛い場面が非常に多いのだが、それをギャグタッチで描いている。それはこれまでの苦労など笑い飛ばしてしまおうという、作者の気持ちの表れなのだろう。生きている限り苦労は尽きないのかもしれないが、いつも前向きでいられるくらいには強くありたいものである。

文=木谷誠