事故か自殺か? 学校一の美少女が謎の転落死――刑事の従兄と少年が事件解決に挑む。中山七里初の学園ミステリー『TAS』

文芸・カルチャー

2018/9/28

『TAS 特別師弟捜査員』(中山七里/集英社)

“どんでん返しの帝王”という異名をもつ作家・中山七里。『さよならドビュッシー』『テミスの剣』など著作の実写化も多いのは、ラストで巧妙に仕掛けられた“裏切り”がいつも、悔しくも心地いいからだろう。著者初の学園ミステリーとなる新作『TAS 特別師弟捜査員』(集英社)もまた同じである。

 学校一の美少女で成績優秀のクラスメート・楓に突然声をかけられ、放課後に会う約束をした主人公の慎也。告白、のわけがない。2人に接点はないし、そもそも楓には彼氏がいる。戸惑いながらも浮き立つ慎也だったが、昼休みに状況は一変。慎也の目の前で、楓は窓の外を落下。死んでしまうのだ。しかも事故か自殺かわからないまま、実は彼女が麻薬常習者だったという衝撃の事実が知らされる。楓は慎也になにを語ろうとしていたのか、平穏な学校生活の裏にいったいなにが隠されているのか。刑事でもある従兄・公彦の協力要請に乗って真相を探りはじめた慎也は(このバディ結成がタイトルの由来だ)、手始めに、楓が部長をつとめていた演劇部への入部を決めるのだが。

 ここでまず、第一の裏切りがある。事件捜査そっちのけで、慎也が演劇にのめりこみ、青春をはじめてしまうのだ。

 楓がいなくなったことで、コンクール出場の危機に陥っていた演劇部。上演予定だった「奇跡の人」(ヘレン・ケラーのあれである)の脚本を読んだ慎也は、とある改編の提案をしてシナリオライターとしての才能を発揮する。慎也が描く「奇跡の人」の新解釈は、不審死事件の謎をおいても読みごたえがあり、このまま青春群像劇で物語が終始してしまうのではないかと錯覚を起こすほどの盛り上がりを見せていく。

 いやいやお前さん事件を忘れるなよ、と釘をさすのが公彦なのだが、教育実習生に扮して学校に潜入した彼の語りもまたおもしろい。梅崎春生の短編「猫の話」を題材に、生徒に死への向き合い方を諭すだけでなく、本読みなら誰もが理不尽に感じてきた「このとき登場人物は何を感じていたのでしょう」などの問いに対する持論を述べる。

〈人それぞれに読み方や感じ方が違うし、誤読だって一つの読み方だ〉〈その読み方こそが読み手の個性になる。他人の書いた物語を見聞きすることで自分という人間を再認識する〉

 この言葉こそが、物語の根幹にあるのではないかと思う。

 不審死事件の真相も演劇部の青春群像もすべて、慎也の視点で語られる。だがそこに他者の視点――ひとつしかないはずの現実にさまざまな“誤読”が加わったことで悲劇が起きる。真実は人の数だけある、なんて言ってしまうと陳腐だが、登場人物の数だけ感性を生み出す中山氏だからこそ、裏切りのラストを紡ぎだせるのではないか。青春の悦びとそれゆえの残酷さがつまった本作。自分だけの解釈を重ねながら最後までぜひ読み切ってほしい。

文=立花もも