遠足という晴れ舞台、マヌケな姿になっちゃった! 絶望する「ウィンナー」を救ってくれたのは?

文芸・カルチャー

公開日:2018/9/29

『ウインナさん』(YUMOCAM/白泉社)

「どんなにおまぬけなすがたでも きみはおべんとうのじかんのヒーローだ!」と帯文句が躍る絵本『ウインナさん』(YUMOCAM/白泉社)。タイトルどおり主人公はウィンナー。メインではないが、お弁当を彩るのに欠かせない食材だ。「絵本のある暮らし」を掲げる雑誌『MOE』が主催する第5回MOE創作絵本グランプリで、ユーモラスな作風が話題を呼んで佳作を受賞した作品である。

 かにさん、たこさん、うさぎさん。どんなふうに切り込まれ、子どもたちをあっといわせるか、楽しみにしながら冷蔵庫で出番を待つウィンナー。ところが遠足の日の朝、ひとつのウィンナーが自分の姿を見て呆然。自分だけ、ちっともかわいくない“人”の姿にされていたのだ。

 せっかくの特別な晴れ舞台に無残な姿となったウィンナー。仲間たちからあわれまれ、絶望する彼の前にあらわれた救世主とは……? と、お話そのものが確かにユニーク。おしゃれなお皿の上で大の字になって泣きわめくウィンナーもなんていうか、すごくかわいい。そんなに落ち込まなくても……と思うのだが、ウィンナーにはウィンナーの矜持と美意識があるらしい。

advertisement

 それもそうか。とくに小さな子どもにとって、お弁当とはただお腹を満たすだけの食料ではない。見た目が華やかならわっと一目で友達の注目を集められるし、彩りが凝っていれば食べるのも楽しい。だから世の中、これほどキャラ弁が流行るのだろう。つくる側の責任も重大だ。

 思わぬ救世主によって、ただの人からヒーローへと大変身を遂げたウィンナー。だが本人は、その姿を確認していない。不安を抱えながら、ナポリタンやちくわキュウリたちと弁当箱のまっくらやみの中寄り添いあうのも、またかわいい。「ずいぶんゆれるわねぇ ベーコンがおちちゃうわ」「ちょっとおさないでよ スクランブルエッグになっちゃうよ」。ウィンナーだけじゃない。他のおかずたちにとっても、弁当は戦いの場であり、いかに美しく魅せられるかが勝負なのだ。

「試行錯誤を重ね、たくさんの方々のお力によって、ゆるく、楽しく、ステキな一冊となりました!」と自身のブログで語る著者のYUMOCAMさん。ゆるく楽しい。それこそがこの絵本の魅力だ。どんな落ちこぼれでも、誰かと力をあわせ、工夫次第ではいちばん輝くことができる……なんて裏メッセージは子どもたちにとって野暮。絵本に大事なのは読んで楽しく、見ておもしろく、身近な物語として手をたたいて笑えることだ。『ウインナさん』はそのすべてをそなえている。

 なんてことを書いていると、ウィンナーが食べたくなってきてしまう。いつもはただ茹でて焼いて転がしているだけだけど、たまには童心にかえって切り込みを入れてみるのもいいかもしれない。失敗したらそのときは、あの救世主にご登場いただけば万事解決なのである。

文=立花もも