シャブ中ヤクザに半グレのボス、ドラッグ密売人相手に“道具屋”大学生が奮闘!『ハスリンボーイ』1巻

マンガ

更新日:2018/10/1

『ハスリンボーイ』(草下シンヤ:原作、本田優貴:漫画/小学館)

 裏社会を舞台としたピカレスクものは根強い人気ジャンルだが、新たに登場した『ハスリンボーイ』(草下シンヤ:原作、本田優貴:漫画/小学館)は犯罪に使用される様々なアイテムを調達する“道具屋”の大学生・タモツを描いた新感覚の裏街道青春譚だ。

 この手のネタが好物という人ならば、原作者の名にも覚えがあるのでは。本作の原作を手がける草下シンヤは、近作では『帝国の神兵』(春乃エリ/KADOKAWA)等SFやファンタジー作品の原作を手がけてはいるものの、本来の持ち味は裏社会をテーマとしたノンフィクション。『実録ドラッグレポート』『裏のハローワーク』(共に彩図社)、『半グレ』(講談社)といった著作の数々を見れば、こちらこそが本職であると言える。作画担当の本田優貴も、デビュー作にして実写映画化も果たした出世作『東京闇虫』(白泉社)のテーマが裏社会ものだから、組むべくして組んだふたりによる渾身のピカレスク・ストーリーである。

 主人公・タモツは、大学入学時に負った奨学金の借金を在学中に返済することを目標に、半年限定で非合法商売“道具屋”の世界へ足を踏み入れる。とはいえ危険度の割に稼ぎは少なく、例えば第1話でヤクザの百瀬に突然依頼された「トバシ携帯3台」は、上がりがたったの3万円。危ない橋を渡り続けてようやく幾ばくかの金を手にできるという、茨の道でもある。

advertisement

 さらにはシャブ中ヤクザの百瀬から、渡したトバシが使えない! とクレームを付けられて、一晩かけての押し問答も発生。これは使いの下っ端ヤクザの伝言ミスが原因なのだが、ラリったヤクザ相手に通じる言い訳でもない。そこでタモツは“シャブが抜けるまで”堂々巡りの問答をひたすら続ける持久戦(7時間!)で窮地を脱する。ここでのガン決まったヤクザの支離滅裂さ描写は、ドラッグ事情に精通する原作者・草下シンヤの本領発揮と言ったところだろう。

 タモツの武器は、道具の調達能力だけではなく、常識が通じない裏社会の面々を相手にしてもギリギリで渡り合っていく、サバイバル能力だ。また裏社会ものとしては珍しく、暴力にはからっきしで基本は逃げの姿勢一辺倒。いかに窮地を脱するか、その手法が面白くもある(そもそも道具の調達自体は、裏の卸問屋的な人物から買ってくるだけだったりする)。

 第1巻では裏の道具屋の日常を描きつつ、ピンチに陥っては辛くも逃げ延びるタモツの機転が読みどころに。さらにはタモツが道具屋稼業に手を染めるきっかけとなったらしい、現在収監中の先代道具屋・間宮なる人物も回想で登場する。1巻中盤からはタモツの表の顔である、大学生としての恋愛事情まで盛り込まれていったところで、作中でトラブった半グレ集団が“表の世界”でも絡み始めてきて……と、2巻へのヒキもたっぷりだ。

 なお、本作には一般人なら耳にしたことはないであろう、裏のスラングも頻出する。そもそもタイトルとなっている「ハスリン」が「非合法な商売」を指すスラングだし、他人名義の銀行口座は「板」、マリファナ栽培は「ガーデニング」でその現場が「キャベツ畑」。

「ガーデニングにLEDライト導入で経費が安上がり」なんて具合に、裏の人間が一般人相手に隠語で会話する様子こそが、本作のリアルさを形作っているようにも感じる。タモツからして冴えない大学生な風貌だし、裏社会の面々は案外すぐそばにいるのかも……舞台となる池袋なら、より多そうだ。

文=佐藤圭亮