「へとへと」と「くたくた」、どっちが疲れている?

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公開日:2018/9/29

『くらべてわかるオノマトペ』(小野正弘/東洋館出版社)

 オノマトペとは、擬音語・擬態語のことだ。「へとへと」「ぐでんぐでん」といったものがこれにあたる。普段何気なく使っているこういう言葉は、実はいろいろ曖昧だ。たとえば「へとへと」と「くたくた」という2つのオノマトペからイメージできる状態はよく似ている。しかし「もうへとへとだよ」というときと「くたくたになった」というときは微妙に違うのではないだろうか。こういったオノマトペが持つ些細なニュアンスの違いをまとめたのが『くらべてわかるオノマトペ』(小野正弘/東洋館出版社)である。

 まずは先述した「へとへと」と「くたくた」の違いについてだ。「へとへと」というオノマトペは肉体的・精神的な疲労について使われる。また「へとへと」の「へと」は、昔存在した「へとる」という動詞からきている。この「へとる」という言葉は困り果てる、疲れ切るという意味を持っており「へとへと」が持つニュアンスも疲れ切る、限界に達するというものだ。一方「くたくた」の方も、心身両方の疲労に使うことができるが、こちらは人に対してだけでなく「上着がくたくたになった」など物に対しても使うことができる。また「くた」というオノマトペは、元々張りのある状態だったものがくずれてしまったという意味を持っている。つまり「へとへと」と「くたくた」を比べた場合、疲れ切るというニュアンスを持っている「へとへと」の方が限界を迎えている度合いが強いといえるだろう。

「ぐでんぐでん」とよく似たオノマトペには「べろんべろん」がある。「ぐでんぐでん」と「べろんべろん」はどちらも酔っぱらった様子を表す言葉だが、はたしてどちらの方がより深く酔った状態を指しているのだろうか? 答えは「べろんべろん」の方だ。なぜなら「ぐでんぐでんに酔っている」状態ではまだ歩けているが「べろんべろんに酔っている」ときはもう歩けないからである。それは以下の使用例からもわかる。

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A氏は、商談が終わると深酒をする悪癖があり、この日もグデングデンになるまで飲んだ。

公園の前を通りかかるとサラリーマンらしき男性がベロンベロンに酔っ払ってベンチの上で寝ています。

 ちなみに、「ぐでんぐでん」は「ぐでぐで」という言い方もあり、これは「ぐだぐだ」という言葉とも関係している。このことから「ぐでぐでに酔っている」という状態は、酔っていてろれつが回らずくだを巻くさまを描写しているといえるのだ。また「べろんべろん」は「べろべろ」という言い方もできる。これは「犬が皿をべろべろ舐める」といったような形でも使える言葉だ。このことからか「べろべろ」「べろんべろん」というオノマトペには粘液的なぬめりのイメージがある。「べろんべろん」が立つこともできない状態を指すのは、ここからたわいもなくつぶれている状態(液状化のイメージ)からの連想だろう。

「のんびり」に近い言葉には「ゆったり」がある。どちらもくつろいだ様子を指すオノマトペだが、どちらの方がよりくつろいでいるイメージだろうか。本書によると「ゆったり」の方がより安心してくつろいでいるイメージが強くなるようだ。たとえば「のんびりした性格」と「ゆったりした性格」を比べてみるとどうだろうか。前者にはややマイナスイメージが入っているようにも思うが、後者にはそれがない。「あの人はのんびりした人だから」「あの人はゆったりとしているから」というときも、やはり後者の方が相手を好意的に捉えている印象が強くなる。本書曰く「のんびり」にはとらわれるものがないからくつろげるイメージがあり、「ゆったり」には落ち着いて余裕があるからくつろげるというイメージを持つことができるという。とらわれるものがないというのは一見いいことだが、危険が迫っても軽く考えて対応をおこたるという印象も持ってしまう。つまり、のんびりくつろぎすぎるというのも危険なのである。そう考えると、やはりゆったりくつろぐという方が安心感が強いのかもしれない。

文=柚兎