『ダ・ヴィンチ』2018年11月号「今月のプラチナ本」は、桜木紫乃『ふたりぐらし』

今月のプラチナ本

2018/10/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ふたりぐらし』

●あらすじ●

元映写技師の信好は、映画関係の仕事で身を立てようとするも上手くいかず、妻の紗弓が看護師として働きながら家計を支えている。信好と母親の死別を描いた「こおろぎ」や、紗弓が不安に駆られてメールを盗み見てしまう「ごめん、好き」など、全10話を収録。夫婦それぞれの視点から交互に日常が語られる連作短編集。

さくらぎ・しの●1965年、北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞し、07年に『氷平線』で単行本デビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞を受賞。

『ふたりぐらし』書影

桜木紫乃
新潮社 1450円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

ひとりではうまく流れてゆけないから

「ひとりではうまく流れてゆけないから、ふたりになったのではなかったか」。本書はふたりぐらしについて、さまざまな疑問を読者に投げかける。簡明な答えはない。だが、光明は示されている。信好と紗弓の関係に、だけではない。信好の母と亡父、紗弓の両親、隣家の老夫婦、出会ったばかりの初老の映画評論家と百貨店店員─驚くのは、200ページちょっとの一冊の中に、こんなに多くの“ふたりぐらし”が息づいていることだ。短編をここまで密度高く仕上げる著者の挑戦と技量に感服。

関口靖彦 本誌編集長。本書は“ひとり”も描く。長い不倫を終えた女、生死もわからぬ男に手紙を送る女。往年のピンク女優と老映写技師の、一瞬の邂逅も忘れられない。

 

人のどこに寄り添うか

ゆっくりとあるべき形に落ち着いていく二人を、短編ひとつ読み終わるごとに感じ満足する。帯に「1日1編で10日間」とあるように、一気読みするより、ちょっとずつ読むのがいい。元映写技師の夫・信好と看護師の妻・紗弓。信好の立場で読めば、自分の置かれている状況を歯がゆく思うし、紗弓の立場で読めば夫のダメ具合に悲しくなってくる。幸せ要素はどこに?と思うのに、読後ほんのり幸せな気分になる。二人のように大切な人に気づけたら「最幸」ということなんだと思う。

鎌野静華 先月は歯が欠けて今月は腰が痛い。年末で仕事はひと段落するし休暇をとってメンテナンスしよう。ってあれ? 夏も同じこと言ってたような……。

 

すべてのひとりを包む小説

桜木さんの小説には、とてつもない包容力がある。9編目の「理想のひと」では50代で未婚の映画評論家・岡田が、ある女性との“ふたり”を受け入れてゆく様が描かれる。彼が選んだ女性は、記憶を失いゆく自身の母親に対し、自分のことすら「忘れていいんだよ」と言って受容し、その反動で岡田を求める。海を隔てた北海道の地を撫でる風と、そこで暮らす人々のたゆたう情緒は、自分にとって遠い、遠い営みであるはずなのに、時にどうしようもなくひとりな自分の裡を柔らかく湿らすのだ。

川戸崇央 原田まりるさんの新連載「ぴぷる」が開始。キャラクターデザインに『君の名は。』の田中将賀さん、WEBドラマの朗読に梶裕貴さんと豪華布陣!

 

金言だらけ、身につまされます

ただ今、休日出勤、深夜2時。数カ月、何日も休みがない。こんな私なんぞ結婚できるのか?“したい”と焦る一方、昨日撮影した次号特集写真の良さにニヤついてる自分が恐い。そんな身に刺さりまくり、金言だらけだった本書。「母に忘れられてゆくわたしを、誰かに見守って欲しかった」。いまだ両親に溺愛されている私には重い言葉だ。〈男と暮らす生活のにおい〉に、同棲時代もあったなと思い出す(幼稚でした)。「たぶん幸福」くらいの幸福。いつかそんな二人になりたいと本を閉じ、願う。

村井有紀子 中村倫也さん特集担当。P193の表情、痺れた。次号はお久しぶり星野源さん大特集。仕事に夢中も幸福。でも甘えたいときもあるわと気づく深夜3時前。

 

明日の幸せを探す物語

同級生の友人が、ちらほらと結婚するようになった。祝福に満ちた式の雰囲気も好きだけど、それよりも友人としてこれまでにあったいろいろを知っていたりするから、今、そこで幸せそうに笑う彼らを見ることが嬉しい。幸せは、過去ではなく今と未来にあるんだなと思う。『ふたりぐらし』はそんな、明日の幸せを探す夫婦の物語だ。幸せに条件も正解もない。比べたり、比べられたり、立ち止まったりしながらも、ゆっくりと歩んでゆく二人の背中に人生のお手本を見たような気がした。

高岡遼 今月も式があって友達に会えるのは嬉しいのですが、場所が札幌。いえ、喜んで行きますけれども。ついでに、海の幸を力の限り食べたいです。

 

さみしい、優しい、おとなたちの物語

やはり桜木紫乃作品。最幸傑作という帯に油断すると痛い目を見ますぞ。私的本書の白眉は、主人公夫婦の周縁に描かれる女たち。一度だけ関係をもった男に手紙を書き続ける女。よそに家を持つ男をダブルベッドと共に待つ女。夫亡きあと2人分の食材を買っては腐らせる女…。彼女たちが生きた時間もまた一つの“ふたりぐらし”なのだろうか。どこかいびつでさみしくて、それでも自分以外の誰かと関わろうともがく大人たちの姿が少しずつ記憶と重なって、思わずちょっと泣いてしまう。

西條弓子 「お菓子と物語」特集を担当。どんなさみしい夜でも、高級なアイスが冷凍庫にあれば大体しのげます。真夜中アイス、確実に太るけどな……。

 

しんしんと積もる幸福が痛い

桜木作品の特徴として、北海道の情景描写がある。作品世界を形作り、ストーリーに鋭さ、重さ、土地ならではの閉塞感を与えていくのだが、本作では夫婦ふたりが積み重ねていく毎日と情景描写が合わさることで、幸福とはなにかを静かに示している。が、やはり桜木作品。どんどん心をえぐってくる。エンターテインメント性のある幸福を人間関係にも求めてしまいがちな自分を思わず省みてしまった。降り積もる幸福に雪のような冷たい痛みを感じた私は“ひとりぐらし”なのだろう。

有田奈央 取材でお会いした黒木華さんの美しさと透明感に感動。お菓子特集に登場した美しく輝く琥珀糖をつまみ、おいしさに感動。やはり、美しさは正義。

 

いつか出会えるその日まで

結婚や同棲なんて遠い未来の話だと思っていたけれど、どうやらそんな悠長に構えていられる年齢でもないのかもしれない。そう気づいた今の自分にとって、本書で描かれる結婚生活はある意味残酷だった。夢や理想だけでは生活は営めない。すれ違いも避けられない……。けれど、大切な人と共に幸せの形を探っていく日々の尊さもまた、確かな事実なのだろう。ひとりでも生きられるけれど、あえてふたりで生きてみたい。いつかそう思える人に出会うまで、ひとりで生きる力を蓄えておこう。

井口和香 こんな偉そうなことを言っておきながらいまだ実家暮らしな私。長くてつらい通勤時間は、物件探しと理想の一人暮らしへの妄想で乗り切るのだ……!

 

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