ガンで「余命3年」を宣告された父から、息子に伝えたい大切なこと

暮らし

公開日:2018/10/3

ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。

著:
出版社:
PHP研究所
発売日:
『ぼくが子どもの頃、ほしかった親になる。』(幡野広志/PHP研究所)

 子どもの成長は、親にとって最大の喜びだ。しかし、親より遅くに生まれる以上、子どもの人生を最後まで見届けることはできない。いつか必ず、別れがくる。

 もしその別れが病気によってもっと早い段階で訪れるとしたら? 息子が二十歳になった姿を見ることなく、思春期の難しい時期を支えられずに、この世を離れることになったら……親として何ができるだろう。

 写真家の幡野広志さんは、34歳で多発性骨髄腫にかかってしまった。ガンの一種だ。主治医から告げられた余命は3年。そして、愛する息子は今年2歳になったばかり。かなり高い確率で、早い段階で息子と離ればなれになる。

advertisement

 幡野さんは決断した。息子に残してあげたい。

 それはお金じゃない。息子が成長していく上で困難に直面したとき、コンパスのように、海の灯台のように、人生の行く末をぼんやりと照らすような光を、言葉を残すことにした。

『ぼくが子どもの頃、ほしかった親になる。』(幡野広志/PHP研究所)は、幡野さんから息子・優くんに送る人生の手紙だ。

 本書には、幡野さんが息子にいつか伝えたい言葉が並んでいる。幡野さんが子どもの頃にほしかった父親をイメージして選んだ言葉がいっぱいある。その多くは、何気ない日常を生きる私たちにも届くものではないだろうか。

■優しい子どもに育てたければまず親が優しい人であるべきだ

「どんな人がタイプ?」と聞けば、誰もが「優しい人」と返す。みんな優しい人に憧れるし、自身もそうなりたい。

 誰よりも優しい妻と結婚した幡野さんは、息子も優しい人であってほしいと願い、「優」という名前をプレゼントした。

 けれども名前をプレゼントしたからって、勝手に優しい人に育つわけじゃない。優しい人に育てたければ、まず親が優しい人であるべきだ。幡野さんは本書でそう訴える。

 では、優しい人って具体的にどのような人だろうか。いつもニコニコしている人? 何かあればすぐに手助けしてくれる人? 幡野さんはこんなエピソードを挙げている。

■優しい人とは人の体や心の痛みを理解できる人のこと

 ガンを宣告されてから、幡野さんは多くの人から激励と共に「こんな治療法があるよ」「このサプリが効くよ」というアドバイスをもらった。

 その善意は受け止めるべきだろう。しかし幡野さんは「病院のベッドに眠って1日でも長く生きる」人生を望んでいない。痛みを和らげる薬を飲んで息子と一緒に過ごす時間を増やし、色々な人に出会って会話を交わし経験を得たい。

 治療法のアドバイスを送った人たちは、幡野さんの気持ちや願いをあまり理解していなかった。

 さらに、ガンに効く治療法を教えてそれが役に立たなかったとき、患者は再び絶望することになる。ガンを宣告されて絶望し、治療法に希望を求め、そしてまた絶望するのだ。

 自分の優しさを相手に押しつけることを、優しい人とはいわない。幡野さんはこれを「優しい虐待」と表現する。

 本当に優しい人とは、人の体や心の痛みを理解できる人のことだ。相手の気持ちを慮って、心に寄り添い、自分にできることをする人だ。それを実践できる人が果たしてどれだけいるだろう。

 私たちは一度、優しさについて考え直すべきではないか。優しさとは、受け取る相手が助かり、心が温まって嬉しくなることだ。決して独りよがりなものではない。

 優しい人でありたい、そんな人と日常を共にしたいと願う私たちは、これからどう生きるべきだろう。

■「黙っていてわかりあえる」なんてありえない

「わかってほしい」。これは恋人や結婚相手につい求めてしまうことだ。けれどもそれが難しくて、いつもケンカになる。いつかすれ違いになって悪い結末を呼んでしまう。

 幡野さんは本書でこう述べている。

身近で味方で、いちばん心を許せる相手が家族でありたいけれど、僕は伝えておきたい。たとえ家族でも、「黙っていてわかりあえる」なんてありえないと。

 誰よりも自分を理解できるのは自分しかいない。だからこそどんなに親しい関係であっても、自分の言葉で相手に伝える方法を知るしかない。

 幡野さんはそのことを息子に教えるため、妻にも、家族にも、どんな相手にだって自分の言葉できちんと伝えている。

 ちょっと厳しい事実だが、私たちも受け止めるべきだ。わかり合うことの難しさに悩んで、誰もが恋愛や人間関係で失敗してきたのだから。

■嫌な人という存在も“ガン”なのかもしれない

 価値観が多様化する現代。だからこそ“幸せの価値観”が問われる。お金がなにより大事な人にとって、ホームレスは不幸に見えるだろう。一方、ホームレスの中には自由を愛する人もいる。そんな人は仕事に縛られて生きる人を不幸だと見ているだろう。

 幡野さんはこう話す。嫌な人はどこにでもいる。そして嫌な人は、自分の幸せの価値観で相手を見て、それに沿っていない人を不幸だと決めつけてしまう。

 幡野さんは今、ガンの痛みを取り除く薬を飲むことで、好きなものを食べて、好きな人と遊んで、好きなことをして、明日の不安を抱えずに暮らしている。人生で一番穏やかで幸せな時間を過ごしているそうだ。

 そんな幡野さんを、息子と長く過ごせないことを引き合いに出して哀れみの目で見てくる人がいる。嫌な人ほどそんな目で見て、決めつけてくる。

もしかしたら、嫌な人という存在も“ガン”なのかもしれない。

 優くんは、こんな世の中で生きていかなければならない。それは私たちも同じだ。だから幡野さんは息子のために本書を残そうと決めた。明るいときには見えないけど、辛く苦しいことがあったとき、暗い海の中でぼんやりと見える光。そんな安心感を与えるような言葉を残したかった。

 一方で、幡野さんは本書を息子に答えを与えるようなものにしたくないと話す。息子には自分で決めた人生を歩んでほしいからだ。この本が優くんの人生を左右するものでありたくない。本書の最後にこんな言葉が載せられている。

だから、この本は、ひらかなくていいんだよ。
だけど、覚えておいてほしい。
優が何を選ぼうと、お父さんは優の答えを受け入れて、ずっと背中を押してあげる。

 幡野さんはこの本を残すことで、子どもの頃にほしかった父親になれたのだろうか。

文=いのうえゆきひろ

この記事で紹介した書籍ほか

ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。

著:
出版社:
PHP研究所
発売日:
ISBN:
9784569841250