忍者とサラリーマンの関係って? 現代から見る新しい忍者論

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公開日:2018/10/8

『そろそろ本当の忍者の話をしよう』(山田雄司:監修/ギャンビット)

「忍者」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。手裏剣や忍装束といったビジュアル面や、主君のためなら命を捨てるストイックさなどが想像できるものだ。これらはマンガや映画といった娯楽作品の影響によるものだが、忍者の存在そのものが謎に包まれているため、創作の幅を広げている。忍者は日本独自のものだといえるものの、訪日外国人から「忍者について教えてほしい」と言われたときに、なかなか答えにくいともいえる。年を追うごとに増え続ける訪日外国人との話題作りは、今のビジネスマンにとって求められる1つのスキルでもあるだろう。

『そろそろ本当の忍者の話をしよう』(山田雄司:監修/ギャンビット)は、忍者の実態を知るうえで必要な知識を押さえた数少ない書籍である。歴史的な背景の紹介から始まり、忍者の存在意義やその活躍、現代における忍者研究まで網羅的に取り上げている。忍者の主な役割は情報収集であり、仕える主君のためにまさに影となって働いているものだ。忍者の生き様は現代のサラリーマンにも通じるところがあり、仕事を正確にこなすために日々研鑽を重ねるという点はいつの時代も同じなのだろう。

 忍者といえば忍術であるものの、火遁の術や水遁の術といったお決まりの技はあくまでも創作の話である。実際の忍術は「肩を外して狭い場所を通り抜ける」「音もなく素早く駆け抜ける」といった一見地味なものであるが、とても実践的だ。本書では通勤時の忍トレというものも紹介されており、ユニークな内容も盛り込まれている。電車に乗っているときを想定して、吊り革を持ったときに目を閉じてわざとバランス感覚をなくし、視覚的な情報に頼らずにバランス感覚を養うというものだ。丹田に意識を集中させることによって、体幹を鍛える効果があるという。通勤時に電車を利用しているなら、ぜひ実践してみたいトレーニングである。

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 忍者がブームとなっているのは何も現代だけではなく、大正時代の頃から何度かその波は訪れている。「クールジャパン」や「地方創生」といったものとも関連性が深く、忍者をテーマにした地域おこしも盛んだ。忍者にゆかりのある場所では、地域ごとにさまざまな忍者を創りあげようとしている。ビジネスを考えるときには、単に目新しいものを追いかけるだけではなく、「これまであったものをどういった切り口で見せるか」といった視点を持つことも大切だといえる。本書は忍者に関するこれまでの書籍とは一線を画しており、各地に残る歴史資料をあらためてひもといたうえで、リアルな忍者像に迫っている。忍者を1つのキャラクターとして捉えるならば、自社のビジネスにも応用ができるかもしれない。

 また、本書は実際に兵糧丸を作ってみたり、狼煙の実験を行ってみたりしている。忍者についての学術的な研究だけではなく、読み物としても楽しめるだろう。第5章では全国各地の忍者にまつわる史跡やレジャー施設を紹介している。本書を携えながら観光地を巡れば、忍者についてますます理解と興味が深まるはずだ。日本文化を考えるときに漠然と歴史を勉強しようとしても、なかなか興味が持てないものである。本書は日本人なら誰もが知っている「忍者」をテーマとした書籍であるため、読み進めているうちに忍者の歴史だけではなく、日本がたどってきた歴史についても理解を深められるだろう。忍者の生き方はどこまでもストイックなところがあるものの、1つの職業として確立された背景を知ると、自分の仕事を見つめ直すきっかけにもなるかもしれない。本書を丁寧に読み込んでいけば、訪日外国人から忍者のことを尋ねられても、慌ててしまうことはないはずだ。

文=方山敏彦