レシピ本って本当に必要? 超簡単な最強料理が人生観をひっくり返す!

食・料理

2018/10/7

『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(稲垣えみ子/マガジンハウス)

 時々テレビでも見かけるアフロヘアの女性をご存じだろうか? 大手新聞社の論説委員や編集委員まで務めた会社員生活を50歳を機に手放し、高級マンションから中古マンションに生活の場を移して、月々の電気代200円で暮らす節電生活が「情熱大陸」にも取り上げられた、稲垣えみ子さんである。自らの一風変わった食生活を紹介した著書『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)が話題を呼んでいる。10分もかからず、1食200円でできる “メシ・汁・漬物”のワンパターンごはんが紹介されているというが…。

■腹立たしいほどうまい!と唸るシンプルな食事

 ある日の食事は、こうだ。

・焼いたがんもどき 干し大根おろしのっけ
・干しキャベツとエノキの味噌汁
・ニンジンとカブのぬか漬け
・海苔
・玄米ご飯と梅干し

 ちょっと小粋な小料理店で出されるような、和柄の小皿にちょこんと盛られた美味しそうな料理の写真が本書に掲載されている。献立の字面もなんだか風雅だ。その作り方はというと…?

 メインディッシュの「がんもどき」は、軽く焼いて大根おろしを乗せただけ。ポイントは、大根を天日干ししてから使うこと。すりおろした時に余計な水分が出ない上に、生よりも濃厚な旨味があるのだとか。味噌汁は火を使わない。ベランダに切って置いておいた“干し野菜”をむんずと掴み、味噌とともにお椀に入れてお湯を注げば出来上がりだ。ぬか漬けも切って並べるだけ。これらの料理に使われている調味料は、塩・醤油・味噌…以上! かなりシンプルだが、稲垣さんはこの「安い・早い・うまい」食事が「腹立たしいほどうまい」と綴り、それを発見した時に「世の中にはこんな食事もあるのか」と驚愕したという。

■シンプルな食事から手に入れた豊かな暮らしとは

 ところで、なぜこのような食生活を始めたのだろう? 稲垣さんはもともと料理好きで、たくさんの調理道具や調味料を所有し、さまざまなレシピ本を参考にしながら世界中のレシピを参考にご馳走を作っていたそうだ。しかし、会社を辞めて暮らしを小さくした際に、高級鍋や、ズラリと並んだ調味料、山積みになったレシピ本をごっそりと捨てた。それから食事を作ろうとしたら、レシピ本を見ないとどうやって味付けをしたらいいのか皆目分からなくなり、覚えないといけないような工程は一切ないワンパターンごはんにたどり着いたという。

 本書は決して数多のレシピ本を否定するものではない。ワンパターンごはんを提案するのは、その食生活から得たものがとても大きかったからだ。たとえば、以前は気づかなかった旬の野菜の旨味。「今日のごはん何にしよう」という無間地獄からの解放。使いこなせる範囲の素材と道具の良さを十二分に生かしながら共に生きるという “身の丈にあった暮らし”。そして究極は、「生きていくのに必要なものなどそう多くはない」という気づき。自分で作って食べ、自分の面倒を見ることができれば、人生怖いことなんてないのではないか、そう思ったときに心が軽くなったという。レシピ通りに作る生活を手放したことで見出したのは、心の底から満たされる豊かな暮らしだった。

 

■今の人生に行き詰まりを感じているならば…

 シンプルな食のアイデアを紹介する本書は、まるで飲み屋で話し掛けられているような口調で親しみやすく、稲垣さんが紆余曲折を経て今の生活を選んだことが伝わってきて興味深い。さまざまな立場の人にとって、今の自分の生活が本当に身の丈にあっているものなのか、考えるきっかけになるだろう。

 さて、これからやってくるのは大根が美味しい季節だ。稲垣さんは「冬の激安御三家」として大根の美味しい食べ方を紹介しながら、こう綴る。

“干し大根おろしにポン酢をかけ、ガスの火で煙が出るくらい加熱したごま油を上からジューッとかけ、ご飯に乗っけて食べてみてください。ご馳走とは何か、固定観念がひっくり返ります。人生観が変わります。その意味では危険です。しかしあなたが今の人生に行き詰まりを感じているならば、挑戦する価値は十二分にあると思います”

 もし自分にとって必要ではないものを手放したら、そこには何が見えるだろう? それを目にしてみたいと強く感じさせる1冊だ。

 

文=吉田有希