ホテルオークラの味を家庭で再現! 一流に仕上げる、元総料理長のひと手間

食・料理

公開日:2018/10/6

 時短料理がもてはやされる昨今だが、一方でプロに習うていねいに作る料理も注目されている。

『ホテルオークラ元総料理長のわが家でプロの味』(KADOKAWA)は、ホテルオークラ元総料理長・根岸規雄氏がホテルの味を家庭で再現できるよう工夫した、初めてのレシピ本。前作の料理家の妻・石原洋子氏との共著『夫はホテルオークラ元総料理長、妻は料理家 ふたりのごはん』は、食を極めたふたりのふだんの食生活を紹介。そのライフスタイルは上質でありながら親しみやすく、多くの支持を得てロングセラーになっている。TVでも特集され、根岸氏が自慢のレシピを披露して反響を呼んだ。

 今回はさらに一歩踏み込んだ、プロの味を家庭で作れるメニューをラインナップ。プロセスを懇切ていねいに写真で見せ、プロならではのわざ―たとえば塩使いや火加減など―役立つテクニックを惜しみなく教えてくれる。ただし、家庭用にアレンジしているので、ほとんどのレシピが特別な材料や道具を使わない工夫がなされている。

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コック服とコック帽を身に付けるとホテルのシェフ時代に戻る。テレビにもこの姿で出演した。

 たとえばホテルオークラの代表的なメニュー・ローストビーフ。
「だれでも簡単にできるように、フライパンで作れるレシピにしました」(根岸氏)と、オーブンは使わず、フライパンのみで仕上げるよう考案。表面をフライパンでじっくりと焼きつけたらアルミホイルで二重に包み、そのまま置いて肉汁を全体に行き渡らせる。焼いた時間と同じぐらいの時間を温かいところで放置し、余熱でやわらかく仕上げるのがコツだ。

厚めに切り肉の旨みを堪能できるのも、家庭で作って食べる醍醐味。

 紹介するレシピは約50品。ホテルオークラの人気メニュー・ビーフサラダやミネストローネおじやのほか、前菜からデザート、洋食の定番・グラタン、ハンバーグなど盛りだくさん。時間をかけて作るデミグラスソースやいわしのテリーヌなども、多くのプロセスカットを交えてあり、わかりやすい。

 また、本書にはこうしたレシピに加え、総料理長時代に培ったコスト管理ともいえる、食材を残さず使い切る工夫も紹介されている。
 前作で、世界一といわれたホテルオークラのフレンチトーストのレシピを紹介したが、読者から「フレンチトーストの液が余ったときはどうしたらよいか」という質問があったため、本書ではそれに答えるべく、浸け込み液で作るパンプディングも提案する。

フレンチトーストを仕込んだ余り液と切り取ったパンの耳を最大限に生かす一品。

 この他、春巻きの皮が余ったらミニクロッカンに、野菜が残ったらキッシュにといった、使いきれない食材をおしゃれに変身させて無駄を出さないプロのわざは、日常の食事にぜひ取り入れたい。やはりシェフの手にかかるとただの残りもの料理でなくなるところが必見だ。

「材料は無駄なく使うこと」「生産者が作ったものに対して敬意をもって扱うこと」が信条という根岸氏。
 ホテルオークラ元総料理長といえば、料理界のいわば重鎮だが、根岸氏の作る料理は温かく、我々が抱くフレンチのイメージをいい意味で打ち砕いてくれる。それは料理への、なにより食材への愛にあふれているからだろう。登場する料理は決して簡単なものばかりではないが、ていねいに作ることで得る体験は、豊かな暮らしへと導いてくれるはずだ。

「本当においしい料理を作るには時間をかけること、手間をかけることが必要です。平日は時短料理でも、休日や人をもてなすときにはぜひじっくり作って、料理の楽しさを味わっていただきたい」

根岸規雄(ねぎしのりお)
1941年、埼玉県生まれ。東京YMCA国際ホテル専門学校卒業後、ホテルオークラ東京の料理人に。ホテル開業以来50年にわたり腕をふるい、第四代総料理長(2001~2009年)を務める。フランス農事功労章シュバリエ受章。現代の名工受章。学校法人北陸学園理事。著書は『ホテルオークラ総料理長の美食帖』(新潮新書)。