『半分、青い。』ロスのあなたへ―名物キャラ・秋風羽織の心震える名言を振り返る

エンタメ

2018/10/5

『秋風羽織の教え 人生は半分、青い。』(秋風羽織、北川悦吏子/マガジンハウス)

 NHK連続テレビ小説『半分、青い。』がついに終わった。そよ風ファンが完成して、最後の最後でヒロイン・鈴愛(永野芽郁)と律(佐藤健)はついに結ばれた。けれど、最終週の震災によるユーコ(清野菜名)の死は物語に暗い影を落とし、やっぱり少し寂しく感じた。なかなか立ち直れないでいる鈴愛のもとに届いたのが、彼女が漫画を辞めても師匠として変わらず慕う秋風羽織(豊川悦司)からの手紙だった。

人生は希望と絶望の繰り返しです。
私なんか、そんなひどい人生でも、大した人生でもないのに、そう思います。
でも、人には想像力があります。夢見る力があります。
(中略)
もう、ダメだと思うか、いや、行ける、先はきっと明るい、と、思うかは、
その人次第です。

 彼は一番辛いときに、一番欲しい言葉を聞かせてくれる。秋風羽織のカッコよさを最後に改めて思い知らされるシーンだった。

『秋風羽織の教え 人生は半分、青い。』(秋風羽織、北川悦吏子/マガジンハウス)は、その強烈なキャラクターで話題になった秋風羽織を独占・密着取材したという一冊。これまで彼が発した名言の数々を、たっぷりの劇中カットとともに振り返ることができる。さらに、彼の言葉の真意が明かされている。

美しい、ということは、それだけで、価値があるのだ。

 思えば彼は、登場時はもう少し尖っていてトリッキーだった。映画『ベニスに死す』に登場する美少年になぞらえて、律を「タジオ」と呼んで視聴者を驚かせた。秋風羽織は本書で堂々と述べている。

「格差はある。人は平等ではない」

と。鈴愛は100円ショップで汗水たらして時給800円。一方、律はモデルとして黙ってじっと座っているだけで時給2000円。この差は認めるべき、とのたまう。確かに、見た目の優劣はどうしようもないのに、「人は平等のはずなのに」とじたばたするのはとても辛いものだ。この考え方はすがすがしい。不平等を認めてしまった方が先に進めると彼は教えてくれる。

「納得いく自分を、努力して勝ち取ればいい。それが生きるということだ、と私なんかは思います」

と。

 この「私なんかは思います」も、彼独特の言い回しとして記憶している人は多いだろう。彼の言葉はその独特の風貌や口調と相まってとても力強いけれど、決して押しつけがましさを感じない。自分の考えを提示しつつ、相手の考えも尊重しようとする姿勢を感じるから、好感が持てる。実際、失恋に着想を得た作品『月が屋根に隠れる』に対する100回を超えるダメ出しの末、応募作品を変えたいと言い出した鈴愛に、秋風羽織はこんなことを言っている。

お前の気持ちが今、そうなら、それも正解かもしれない。

 いつも正解はひとつだという彼だが、

「自分自身で迷いなく『こっちだ』と思える正解を発掘したなら、それが正解なのです」

と当時を振り返る。本人も含め第三者の言うことはどうあれ、自分の心に従うことを良しとする。なるほど、悩んでいるとき、迷っているときこそ、自身の素直な気持ちに自信を持ちたいものだ。

ダメな人間なんて思わないさ。

 ユーコが漫画家を辞めてお嫁に行くことを決めたときにはこう言った。逃げる、諦めると解釈されがちな決断も、本人が決めたことなら彼は肯定してくれる。それどころか、もう弟子ではなくなるというのに

「ここから、お嫁に行けばいい」

と父親代わりになることを引き受けた(これは泣けた、同ドラマの中でも特に胸アツなシーンのひとつ)。思いが強いものほど、始めることより辞めることの方がずっとエネルギーを使う。自分を否定したくなるときは、彼のこの言葉を思い出したい。

 それにしても彼は変わった。本人も

「余命を意識したとき、本能的に、もっと、ちゃんと、人と深くかかわりたくなったのかもしれません」

と、本書の中で告白している。犬だけが友達の変人として登場した彼だが、愛情あふれる深い父性の持ち主だった。その口から語られたことは普遍的で共感するものが多い。ドラマは終わってしまったけれど、彼の残した言葉は鈴愛たちとともに私たちの人生も照らし続けてくれるだろう。

文=岩瀬由希