あなたはできてる? 頭が良くなる「メモ」のとり方って?

ビジネス

2018/10/11

『思考を鍛えるメモ力』(齋藤孝/筑摩書房)

 人の話を聞いているときに、突然「今、話したことのポイントを要約して言ってみて」と言われて、すぐに対応できる人がどれだけいるだろうか。もし、すぐにスラスラと要点を言えるのなら、メモをとる必要はない。いきなり聞かれてもちょっと困るという人には、『思考を鍛えるメモ力』(齋藤孝/筑摩書房)を読むことをオススメする。

 メモをとったことのない人はいないかもしれないが、上手なメモのとり方を知っている人はそれほど多くないだろう。著者の提案するメモは、普通のメモとはちょっと違うのである。たとえば、魚を手に入れたいときには魚屋に行くことが多いだろう。あるいは、海に出て網で捕まえることもできる。このくらいの違いがあると、著者は言う。

 魚屋の店頭には、海で捕れた魚が種類やサイズ別にきれいに並べられている。買い物客はそこから気に入った魚を選べば良い。しかし、魚屋を経由せずに海で直接魚を捕まえるには、自ら網を投げ入れる必要がある。このとき、良い網を持っていれば、良い魚が捕れる。もし、海に浮かぶゴミなどが引っかからず、自分が必要とする魚だけ捕れるような網があれば最高だ。

 教室で先生が黒板に書き付けたり、プロジェクターで表示したりする文字列を、そのままノートに写し取るのは、魚屋で魚を買うのと同じだ。既に魚がきれいに並べられている状態を見て、同じように並べるのと同じ行為なのである。これでは、先生の思考をトレースするだけで、自分の思考力のトレーニングにはならない。魚の捕り方を知りたければ、海に出るしかないのだ。海で役に立つのが、「優れた網」であるように、人の話を聞くときには「メモ力」が重要になる。

 本書では、メモの効用から始まり、具体的な方法論や歴史上の知的偉人たちのメモのとり方まで、メモに関するさまざまな情報がまとめられている。10項目挙げられた「メモの効用」としてとくに面白いのは、相手に聞く姿勢を示せるという点である。たとえば、あなたに2人の部下がいて、話をするときに、メモをとりながら聞いている部下と漫然と聞いている部下がいたら、どのような印象を持つだろうか。おそらく、前者の方に好印象を持つだろう。それは、メモという行為が積極的に聞いているという印象を与えるからだ。組織のメンバーとして仕事をするときには、このような印象は案外重要だったりする。

 メモに関する方法論としてとくに興味深い点は「メモの3段階説」である。メモには、初級の「守りのメモ」、中級の「攻めのメモ」、そして上級の「鬼のメモ」の3つのレベルあると著者は言う。メモ初級者は、相手の言葉を書き留めることがメモの中心となっている。つまり、聞いたことを書き写しているだけなのだ。これがメモ中級者になると、相手の言葉とともに自分の意見や感想、さらに疑問点も一緒に書き留めるようになる。この段階では、聞いた内容に対するリアクションが表現されていて、知的な攻めの姿勢が感じられる。さらに、メモ上級者になると、自分のアイデアやオリジナリティーあふれる発見につながるメモとなる。人の話を聞きながら、同時に自分の頭で新しい価値を生み出す装置になるのだ。これを、クリエイティブな手法としての「鬼のメモ」と呼んでいる。

 著者の視線は、歴史上有名なクリエイティビティを発揮した偉人たちと同時に、さまざまな領域で活躍する現代人たちにも向けられる。エジソンやレオナルド・ダ・ヴィンチのメモと滝沢カレンのインスタグラムの文章を同列に論じているのだ。また、野球の大谷翔平の「目標達成シート」やサッカーの中村俊輔の「夢をかなえるサッカーノート」についても紹介し、時代や世代を超えた、クリエイティブなメモの可能性を見せてくれるのである。

 著者は大学の先生でもあるので、学生向けのすぐに使える具体的な手法についてのアドバイスが満載だ。これまで著者自身が体験的に獲得してきたこれら数々の手法は、学生のみならず、実践的な知的方法論を渇望する人たちには広く活用できるものとなるだろう。

文=sakurakopon