平凡なあの子のバックグラウンド、実はエキサイティング

公開日:2012/3/28

水産ねり製品入門

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 日本食糧新聞社
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:柴眞 価格:648円

※最新の価格はストアでご確認ください。

日本に在住の皆さんには、ちょっと想像すら難しいかもしれません。スペイン在住16年このかた、ずっとずっと、水産ねり製品に淡い恋心というか、儚い思いを常々感じてきました。日本食品店などで見かけるちくわやかまぼこ。日本では数十円のはんぺんですら、こちらでは高級品。おいそれと買える代物ではありません。

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秋冬、寒くなり始めにいつも胸が詰まるように思い出す、おでん。フードプロセッサーやすり鉢を駆使して魚のすり身ダンゴやつみれ、海老ダンゴ、いろいろ試みてきましたが、オデン鍋をぎゅうぎゅうにするほどの練り製品が作れるわけもなく、過労の果てに、うどんすきあたりにとどまって涙を呑むことこの十数年。この1冊をネットで見かけたときには、救世主の現れた思いでした。

というのも、巷のレシピ本では、ねり製品の作りかた、本当に限られているのです。この1冊はまさにプロ仕様。目次を見ているだけで痺れてきます。海に囲まれた日本のねり製品の歴史は古い!! なんでも、文献でたどれるのは12世紀にはすでに登場しているとか。お隣中国ではすでに6世紀の文献に記述があります。器具も技術も現在よりは制限があるだろうそのぐらいの時代から作られているものが、家庭でできないわけがない、と奮起することしきり。

どうしてあのもっちり感が出ないのか、どうやったらあの弾力が出せるのか、興奮して読み進むうちに、これは科学の世界ということもよくわかってきます。魚の種類によって、適当な冷凍温度も違えば、解凍速度も肉質に重要な影響を与えることも、明確に。フムフム。優秀な弾力を生み出すのはグチ類。そして、「かまぼこのために生まれてきた」と言われる、エソという魚。ネットで早速どんな魚か検索します。かまぼこのあの弾力を最大限に出すには、食塩濃度も重要で、魚肉に対して2.5%~3%の食塩量が魚肉の弾力を最も効果的に引き出すとか。

あぁ! なんてエキサイティング!! 普通のレシピ本では、分量どおりに作って上手く行っても、行かなくても、その「秘密」がわかりませんが、こういう本はかゆいところに手が届くというか、1冊読むと、もうこちらでかまぼこ工場1軒立てずにはいられないような気持ちになります。ビバ、日本の専門知識。

ちなみに、スペインでは「かにカマ」はありますが、それもだらりとやる気のないものばかり。この国でねり製品革命を起こしたい…と思わせてくれるほど、専門度100%のこの1冊。業界の人にはことに有名なのかもしれません。日本食糧新聞社に拍手。ねり製品豊かな日本国内で読んでも、改めてその深い世界を認識させてくれます。


古文書に現れる食べ物の記述って、本当にロマンにあふれます

魚のすりみだけでこれだけのバラエティを出せるのも日本人の職人技ゆえ

お、冷凍すり身ならこちらでも手に入るかも。こういう近道も手作りには大事

魚のおろし方ではなく、「魚体の処理形態」。カタカナを使うところを見ると、輸入された技術も? (C)柴眞/日本食糧新聞社