社員は家族ではなくドリームチーム!? ネットフリックスに見る企業と社員の新たな関係

ビジネス

公開日:2018/10/10

『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』(パティ・マッコード:著、櫻井祐子:訳/光文社)

 映像ストリーミング配信技術と、魅力的なオリジナル・コンテンツ。この2つを大きな武器に躍進を続ける「ネットフリックス」(以下、同社)。7月16日に同社が発表した2018年第2四半期(4~6月)の決算報告によれば、世界の総契約者数(無料・有料会員の合計)は1億3014万人になるという(7月17日、ITメディアニュース)。

 筆者も会員のひとりだが、画期的なのはやはり、同社サイトでしか観られない新作映画&ドラマが大量にリリースされ、自宅を飽きることのないプチ映画館に変えてくれたことだろう。

 1998年、米国内向けDVDレンタル会社としてスタートした同社は、この20年間で世界190以上の国々でサービス展開するグローバル企業となった。

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 その成功の秘密は、コンテンツの充実や低額料金設定など、さまざまにあるだろう。しかし中でもいちばんの成功要因は、「型破りな人事制度に支えられた企業カルチャーにあった」と教えてくれるのが『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』(パティ・マッコード:著、櫻井祐子:訳/光文社)だ。

■世界中の企業から注目された「カルチャーデック」とは?

 著者で人事コンサルタントとして活躍するマッコード氏は、創立時から2012年までの14年間、最高人事責任者として同社の企業カルチャーの礎を築いたひとりだ。

 同社の企業カルチャーが世界中の企業から注目されたのは、「カルチャーデック」(以下、デック)と呼ばれる、同社の企業文化や社員の行動規範を明文化させたテキストをネットで公開したからで、著者は、そのデックの執筆者のひとりでもある。

 たとえばデック内の「勇気」という項目にはこんなことが書かれている。

・ネットフリックスにとって最善である場合には、たとえ気まずくても、自分の考えを発言する
・現状に批判的になることを厭わない
etc.

 ほかにも、イノベーション、ドリームチーム、自由と責任などさまざまな項目がある。本書は、デックの主要な部分にフォーカスし、それが生まれた経緯や、試行錯誤と葛藤の歴史などにも触れ、同社の企業カルチャーが誕生するまでの全貌を明かしている。

 ユニークなものとしては、「社員を大人扱いする」(有給休暇制度や経費規定を廃止し、自ら休暇と経費使用を正しく管理する、スキルアップも自主的に行う)、「人事評価制度を廃止する」(時間と労力がかかる割に成果のあがらない無駄はすべて排除する)など、本書に詳しく書かれている。ここでは、「ドリームチーム」(会社は家族ではなく、プロスポーツチームである)という考え方を紹介しよう。

■会社は家族ではなくスター選手が集まる「ドリームチーム」

 プロのスポーツチームというのは、結果を出してチームに貢献できる選手だけが生き残れる世界だ。そのための選手、コーチ、監督の入れ替えは常識であり、ファンも結果があってこそ応援してくれる。

 多くのファンの多様なニーズに応えるコンテンツを、より快適な環境で提供するという結果のためには、同社の社員も全員がスター選手のごとく、ハイパフォーマンスを発揮することが望まれるわけだ。

 時代の変化にスピーディに対応することが必須の同社にとって、社員は家族ではない。親睦を深める行事は一切行わないし、キャリアパスのお世話やスキルアップのバックアップなど「社員に対する義務は負わない」のが同社のポリシーだ。

 その代わり、優秀な人材にはどんどんポストを与え、ポテンシャルのある社員なら仕事を通してスキルアップできる。また、必要な人材には業界トップレベルの高給を用意し、外部からも積極的に人材を採り、ニーズに合わない社員には積極的に退職してもらう。

■グローバル企業のチーム作り、求める人材像も見えてくる本書

 クールなイメージを感じるだろうが、これがグローバル競争を勝ち抜くための、会社と社員の双方にとってベストな道だと著者は記す。

 解雇する理由のなかには、その社員の情熱やスキルが、他社ならもっと生かせるという判断もある。また、社員が自分の市場価値を知ることができるように、定期的に他社の面接を受けるよう奨励もする。会社のメリットだけではなく、社員がよりよい輝き方を模索することもバックアップする。

 つまり、同社が理想とする会社とは、会社と社員が互いのよりよい未来に向けて対等に共存し、ポジティブに切磋琢磨し合う場所なのだ。

 本書からは、グローバル企業のチーム作りだけでなく、求める人材像も見えてくる。自らイノベーションを起こす力、専門性を持ちつつも柔軟にスキルアップするしなやかさ、部分だけでなく全体を見通せる視点など、身に付けるべきことはさまざまだが、その点はぜひ、本書からダイレクトに感じ取ってほしい。

 働き方改革が謳われる昨今、グローバル企業への就職や転職などを考えている、起業を考えている、チームリーダー職に就きたい、人事系の仕事をしている、自分らしく輝く方法を探しているなど、多くのビジネスパーソンたちに本書をおすすめしたい。

文=町田光