これぞ理想のイチャラブ!? 悶絶必至の焦れキュンが眩しい『青春敗者ぼっち野郎、金髪尻軽ギャルのお気に入りになる』

文芸・カルチャー

2018/10/10

『青春敗者ぼっち野郎、金髪尻軽ギャルのお気に入りになる』(刑部大輔/KADOKAWA)

 クラスカースト最下位のぼっち野郎が、リア充代表の金髪ギャルから気に入られるイチャラブストーリー。そう聞けば「ご都合主義」といった言葉を思い浮かべる方もいるだろう。そんな警戒心を抱く読み手であるほど、このストーリーを読むと意外な驚きと感動を味わう事ができる。人とつながることで変化する世界と、変わる自分、変わらなくてよい自分。普遍的な問いかけへの虜となるからだ。

 クラスの中で常に空気。ぼっちで過ごす時間が暇すぎて勉強していたら、成績上位者になっていた高校生・一条純。リア充は縁のないものと満足していたが、クラスメイトの橘かれんから声をかけられ、勉強の面倒を見ることになってしまう。歩く校則違反、恋愛経験豊富な噂もよく聞く金髪ギャルという、リア充の化身とでもいうべき彼女が純に向ける謎の好意。勉強のために利用されているのだろうと、他者に詮索しないぼっちを貫こうとする純だが、かれんはその事が不満のようで……。

『青春敗者ぼっち野郎、金髪尻軽ギャルのお気に入りになる』(刑部大輔/KADOKAWA)は、ぼっち系ツンデレ男子の純と、天真爛漫なギャルであるかれんとのイチャラブが、とにかく甘く初々しい物語だ。WEB小説投稿サイト「小説家になろう」では、「現実世界【恋愛】」でジャンル別ランキング年間1位を獲得した。

 その原動力としてヒロインであるかれんの魅力が大きい。

「別にいいよ、ビッチって呼んでも。でもさ……二人でそんな風に呼び合ってたら、みんなから仲良いって思われちゃうね……?」
「とにかくあたしは嫌だかんね、ガリ勉が嫌われんの! いい人なのに。優しいし」
「少しだけね、なってほしい方向にも行ってみるの。それをね、今のキミと……ほんの少しだけ混ぜてみるの」

 ケラケラと笑いながら純をからかう姿は、2人きりの勉強会を通してあざとさの裏に隠れた情熱、強引さの中に潜む一途さなど、その本質が零れだしてくる。

「えへへ。毎日教えてもらってるね。毎日毎日、二人っきりで……楽しい」
「大丈夫……一緒に歩いて? 時々、あたしの方を向いて?」
「ほら、キミのおかげでドキドキしてる……」

 時に献身的でもあるその姿に「可愛いな」と思ってしまえば、(いや、もうお前ら付き合えよ!)と心の中で叫んでしまい、行く末を見守ろうにも焦れて悶絶する。“焦れキュン”とでも言うべきラブコメディとして間違いなく一級品だ。

 また、集団に対する距離感や、変化する己への戸惑いといったテーマに向き合う事で、本作をより厚みのある物語としている。

「ずっと独りでいて、嫌じゃないの? しかも、ちょっとウザがられてさ」
「別に……嫌ってほどじゃないよ。中には他人にどう思われても気にしないって奴もいるもんだ。でもなきゃ、昼休みに勉強なんかしないっての」

 誰にも関わらず、誰からも関わられない存在だったはずの純。

「なんだか、しゃーねーよなあ…………今日だけは、とことん付き合うよ」
「別に、お礼なんて……。俺にも責任があると思っただけだ」
「よし分かった。でも自業自得なら、尚更あいつを許してやれ」

 かれんの言動に応える日々の中、「責任」や「許す」という言葉が自然と出るようになる。それは「心はぼっち」と宣言するその本質のまま、新しい距離感を作り直していく変化だった。

 その土台には家族の存在がある。コミュニケーションの素晴らしさを確信するゆえに教育に余念がない叔母と、家族としての甘えと気安さを通して、交流の暖かさを教えてくれるひきこもりの妹。幼少期より培っていたものが、変化を自然で納得のいくものとする説得力の源泉となっている。

 ぼっちが突然リア充に好意を抱かれるという「ご都合」からはじまる物語は、しっかりとした背景を抱く確かな人間描写によって、自然な青春へと昇華していく。

 自分の青春時代は完全無欠だったと誇れる人間はさほど多くはないだろう。本作は何かをやり残してきてしまった心の棘を引き抜いてくれる、可能性の物語だ。

 10月1日に1巻が発売。2人の行く末を見届けるまでは読むのを止められそうにない。