甲子園決勝再試合、対照的な2校の感動的な試合。高校野球小説の決定版!

小説・エッセイ

更新日:2012/4/4

大延長

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 実業之日本社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:堂場瞬一 価格:864円

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甲子園ではセンバツも佳境。その熱気が冷めないうちにお読みいただきたいのが本書『大延長』だ。こちらは夏の甲子園が舞台だが、高校野球のおもしろさ、醍醐味、興奮がみっちり詰まっている。高校野球が好きなら読み逃しちゃいけない1冊である。

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舞台は甲子園大会の決勝戦。かたや初出場ながら好投手を擁して決勝まで勝ち上がった新潟の公立高校。かたや甲子園の常連で爆発的な打力を持つ東京の甲子園常連校。この両校の決勝は延長15回で決着がつかず、翌日の再試合に持ち込まれた。しかし公立校のエースは負傷、強豪校の方はここへきて不祥事が持ち上がる。明日の再試合、どうなるの!

この小説がすごいのは構成だ。第一部は再試合を翌日に控えて問題が発生したそれぞれの高校の様子を描く。そして第二部では、決勝戦再試合の様子を描く。つまりたった二日間の出来事なのだ。第二部などは試合だけなのだ。けれど、飽きさせない。第一部で両校の生徒達や監督の思いをみっちり描かれている分たっぷり感情移入してしまい、試合の一投一球にドキドキしてしまう。登場人物のひとりひとりが、その顔が浮かぶくらい丹念に描き込まれているので、いちいち感情移入させられ、目頭が熱くなった。しまいには「もう決着つけないで!」と叫びたくなるほど。

そして読者の思いが登場人物たちとシンクロする。「野球は楽しいな。それだけのことだ」「だからずっと試合をしていたい?」「そういうこと」──この会話を読んだとき、きっと読者は大きくうなずくだろう。

スポーツというのは本来それ自体がドラマだ、ということを思い知らせてくれる。この本は野球の匂いと音がする。抜群の文章力で、高校野球の砂埃や、灼熱の太陽が見えてくる。スタンドのブラスバンドや歓声、ベンチからの声が聞こえてくる。プレイする場面を言葉だけでここまで的確に、エキサイティングに描写できる書き手は少ない。これを読めば、チームワークがどうとか成長がどうとかという、スポーツ小説にありがちなお題目は要らないことがよくわかる。野球そのものが、ただおもしろい。これはそんな野球小説である。


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