無敵のボディビルダーが、筋肉を歓喜に打ち震わせる異色グルメ漫画『マッチョグルメ』

マンガ

公開日:2018/10/15

『マッチョグルメ』(成田成哲/集英社)

 隆起する胸筋、膨れ上がる上腕二頭筋、バキバキに割れた腹筋と背筋。鍛え上げられた筋肉の芸術・ボディビルダーの世界で“筋肉の化身(マッスルリバース)”と呼ばれた男がいた。天王寺美貴久だ。

 ボディビルディングの地区大会で圧勝しトロフィーを片手に会場を後にする天王寺に、ライバル選手が駆け寄って問いただす。「貴様の強さの秘訣はなんだ!?」。彼は穏やかな笑顔でこう答えるのだ。

“常に心が満たされている事
今日も祝勝をかねてとびきり美味い物を食べに行く…!”

 読者は“チートデイ”をご存じだろうか。芸術的な肉体を作るため食事制限が欠かせないボディビル。しかし、それを続けると身体が低燃費モードになり基礎代謝が下がる。これを防ぐために数週間に一度、好きに飲食をする“身体を騙す日”を設ける。それが“チートデイ”だ!

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“『食』とは…心と筋肉を形作るに最も不可欠な要素
『食』無くして筋肉無し!!
よって『食』無くして勝利無しッ!!“

“筋肉の化身”の強さの秘訣はチートデイに有り。尊いバルクアップ(=筋肉を増大させること)と煉獄の如き減量期間を耐え抜いた肉体に感謝を表すため、今日も天王寺はチートデイを堪能する。『マッチョグルメ』(成田成哲/集英社)は、無敵のボディビルダーが本能の赴くままぐいぐいとグルメを味わい尽くす猛々しいマンガだ。

■ページを開けば、鍛え抜かれた肉体と食への敬愛がほとばしる!

 ある日、天王寺が訪れたお店は「洋食エリーゼ えいすけ」。初めて訪れるにもかかわらず、不敵な笑みを浮かべ入店。そこで注文したのは「ビーフカツレツ定食(ごはん大盛り)1392kcal」だった。本来ボディビルダーにとってカロリー満点の食事は御法度。しかし今日はチートデイ。全ては心と筋肉のために――この日だけは好きな物を好きなだけ気の赴くままに食す!

 濃厚なデミグラスソース、サクサクの衣、柔らかくも肉感あふれる牛ロース…。涙を流しながらビーフカツレツ定食を味わう天王寺。

“ビーフカツレツ注文して良かった…!”

 筋肉が歓喜に打ち震えはちきれそうになりながら全身全霊で料理を味わう姿に、マンガを握りしめるこちらも口内に唾液がわきだすのを感じる。

 それと同時に、天王寺の鍛え抜かれた肉体が醸し出すシリアスな雰囲気と食事に対する崇高な敬愛が絶妙に混ざり合い、読み進めるとなぜか吹き出してしまう。人気漫画『バクマン。』で見た

ような、シリアスなシーンでクスリとくるようなユーモアがあふれているのだ。

 思う存分チートデイを堪能した天王寺。食べ終えた空の料理皿を前に、ナイスバルクな決めポーズで感謝と喜びを表現する。その画は、神々しくユーモアに満ちている。…美しい!

“心も筋肉も喜びに満ち煌めいている
長く険しい人生の旅路…
食事の瞬間くらい
思い切り楽しんだって良いじゃないか”

 格言を残しながら店を後にする天王寺の背中は、広くて厚みがある。これこそ肉体と食を愛する本物の漢(ボディビルダー)なのかもしれない。彼のような雄々しい姿に、読んでいて憧れる。その食いっぷりに、お腹が減ってくる。

 ちなみにこの作品に登場するお店の多くは、実在する。前述の「洋食エリーゼ えいすけ」は埼玉県のみずほ台にある人気洋食店だ。リアルで使える情報を提供してくれる点もありがたい。

 もし食事を心から楽しめなくなったら、本作を読んでほしい。筋トレやダイエットで追い込まれたときにもページをめくってほしい。私たちは“食”を切り離しては生きていけない。食の喜びを忘れて人生を楽しめない。

“食”は人生最高のエンターテイメントの1つ。それを天王寺の食事シーンを見ることで再確認してほしい。

文=いのうえゆきひろ