一度太ると痩せにくくなる!? 肥満になると食欲が抑えられなくなる理由とは

健康・美容

公開日:2018/10/19

『一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学』(新谷隆史/光文社)

「人生で痩せていたこと一度もない」と言って母は私を驚かせたが、同じような人生を私も歩んでしまっている。原因はわかっている。単純に私は食べる量が多いのだ。先の母の言葉を私にあてはめるなら「人生で小食だったことは一度もない」と言い換えられる。

 なぜ食べ過ぎるのか。私の意思が豆腐のような強度しか持ちえないからか。だが、「そうではありません」と理路整然と教えてくれるのが本書『一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学』(新谷隆史/光文社)だ。

 太ったことのある人なら実感しているだろう。太るのは簡単だが、一度太ると痩せるのは大変だ。新谷氏は、それには理由があると指摘する。驚くべきことに、太ったことによって体の中も変化するというのだ。本書からそのメカニズムの一部を紹介しよう。

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 ネズミを常にエサが食べられる状態で飼育しても、ほとんど太らないという。食べる量は毎日ほぼ同じだ。数日絶食させ、その後再びエサを与えても、何日かは絶食前より多くのエサを食べて体重を一時的に増やすが、その後は食べる量を減らして元に戻す。人間も、ネズミと同じように体重を一定に保つ仕組みを持っているそうだ。ではなぜ人は太るのか。食べ物を食べようとする欲求「食欲」についてみてみよう。

「空腹中枢」「満腹中枢」は聞いたことがあるだろう。血糖値の低下を空腹中枢が検知して食欲が発生し、血糖値の上昇が満腹中枢を刺激して満腹だと感じる。血糖値が食欲に関係しているのは明らかだ。だが、その後の研究から、血糖値だけでは食欲を説明しきれない現象が明らかになったそうだ。すなわち、血糖値以外に空腹感と満腹感を生み出しているものが存在していることが分かったというのだ。

 血糖値以外に食欲をコントロールするもの、それがレプチンだという。レプチンは1994年に発見された、脂肪細胞だけで作られるホルモンのこと。視床下部に働いて摂食行動を強力に抑制するという。また、交感神経を活発化させて、脂肪細胞の分解を促進するとか。つまり、二重の仕組みで肥満を解消するように働くというのだ。脳の弓状核はレプチン受容体を持っていて、これがレプチンの情報を伝えているという。

 このレプチンの働きによって、体内の脂肪量が一定に保たれていると考えられる。食べる量が増えて体脂肪が増加すると、脂肪細胞で作られるレプチンの量も増える。すると、レプチンが作用することで、食欲が抑制され食べる量が減り、中性脂肪の分解も進むというのだ。

 レプチンは強力に食欲を抑えるため、当初は痩せ薬として期待された。しかし、この期待は早々と崩れ去る。なぜなら、肥満状態が続くとレプチンが効きにくくなる、「レプチン抵抗性」と呼ばれる症状が生じることが分かったからだ。

 そもそも肥満者では脂肪組織が拡大しているので、レプチンが大量に放出されているはず。実際に、肥満している人の血液中のレプチン濃度を測定してみると、痩せている人に比べてとても高い。つまり、弓状核にレプチンが大量に届いているにもかかわらず、「レプチン抵抗性」のために肥満者では食欲が抑えられていないというのだ。

 本書には、他にも「快楽性の食欲」が生まれる仕組みや砂糖や脂肪の依存性についてなどが科学的に説明されている。肥満が健康におよぼす悪影響も詳細に、また、肥満解消のヒントとなる情報も掲載されている。

 特に第1章の「太るとなぜ病気になるのか?」は、見た目の問題よりももっと深刻な状態に、肥満者は我が身を反省するだろう。体のしくみに興味のある方や、健康診断でメタボリック判定を受けても危機感を持てない方はぜひ一度読んでみてはいかがだろうか。

文=高橋輝実