【グルメ漫画特集】お客が皆大満足で帰っていく、「ぼったくり」居酒屋とは?

マンガ

更新日:2018/10/22

『居酒屋ぼったくり』3巻(秋川滝美:原作、しわすだ:漫画/アルファポリス)

 飲んべえの大敵といえば、「ぼったくり」だろう。美味しいご飯とお酒を人生の楽しみにしている人から不当にお金を巻き上げる行為は、断じて許されない。

 だが、『居酒屋ぼったくり』(秋川滝美:原作、しわすだ:漫画/アルファポリス)の主人公が営む居酒屋の名前は「ぼったくり」だ。この店の何がぼったくりなのか。本作を読み進めていくうちに、それは少しずつわかってくる。

「ぼったくり」の店主で主人公の美音(みね)は、人情に厚い大の世話好き。両親を亡くした後、妹の馨(かおる)とふたりで店を守り続けている。居心地の良さから常連になるお客たちの話を聞きながら、丁度いいお酒をすすめ、それに合う料理をスッと出してくれる美音と、笑顔でそれを運ぶ馨。「次はどんなお酒と料理が出てくるのだろう…」と、読んでいるだけで気分はもう常連だ。

advertisement

 本作3巻では、「跡継ぎ」という問題の複雑な立場が語られている。妹・馨の彼氏で、両親が喫茶店を経営するという哲は、自分が両親の店を継がないことに引け目を感じながら生きている。また、常連のトクさんは建設現場の親方で、植木屋を営む親の跡を継がずに飛び込んできた弟子を抱えている。

 そんな人生の難しさについて話しながら飲み交わす酒は、佐賀県の「東一」。アテはふわふわのはんぺんだ。親の居酒屋を継いだ美音と、継がなかった哲。彼らがカウンター越しに話している様子を読んでいると、なんだか自分も同席して相槌を打っているかのような気持ちになってくる。

 その後も本書では、美味しい餃子の作り方が紹介され、それに合う数々の銘酒が登場する。そして巻末では、哲の両親と馨が対面することに…。料理や酒ももちろんだが、ストーリーを成す人間模様からも目が離せない。

 原作が秋川滝美さんの小説とだけあって、人生の悩みや恋愛、人と人との関わり合いなど、ストーリーの展開に引き込まれる。その舞台が居酒屋となれば、読者は居合わせた客のひとりのような心持ちで登場人物の話に聞き入ることができるのだ。

 さて、冒頭でも触れたが、どうしてこんなにも素敵な居酒屋が「ぼったくり」なのか。それは、どうやら「客が店をぼったくってしまう」ことによるようだ。

 姉妹が振る舞うお酒と料理は格安なのにとても美味しい。舌鼓を打った客たちは、さらに彼女らの優しさに癒され、大満足で帰っていく。そんな「逆ぼったくり」な居酒屋なのだ。

文=K(稲)