『憂鬱な朝』ついに完結! 圧倒的クオリティのBL大河ロマン・3つの読みどころ

マンガ

更新日:2018/10/30

『憂鬱な朝』(日高ショーコ/徳間書店)

 ボーイズラブが好きな人で、日高ショーコの名前を知らない人はいないだろう。丁寧な作画とストーリーで、BLに必須の「萌え」が満載の完成度の高い作品を描く、BL界で絶大な支持を得ている大人気作家だ。作画と原作の2人組で活動しているユニットでもある。

 見た目がうるわしく、中身が個性的なキャラクターたち、繊細な心理描写、そしてドラマチックなストーリー展開。作品ごとにしっかりと構築されるその世界観は、ファンを魅了し続けている。2017年には、不器用な大学生と年上の会社員の恋を描いた『花は咲くか』(全5巻)が実写映画化された。

 その日高作品の中で最長となった大河ロマンBL『憂鬱な朝』がこのたび完結。最終巻となる8巻が、10月25日(木)に発売された。『憂鬱な朝』は、華族制度がまだ生きている明治を舞台に、まっすぐに育った若き子爵・久世暁人と、有能で美しい家令の桂木智之の恋と人生を描く大河ロマン。幼くして両親を亡くし上京した暁人は、教育係でもある桂木だけが頼りだった。しかしなぜか桂木は初対面のときから、暁人に冷たくて――。激動の時代に、2人はどう生きるのか。この恋は成就するのか。読みどころを3つにしぼってご紹介する。

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■その1 子爵と家令、その恋の行方は

 2人の年齢差は11歳。物語の冒頭、暁人は10歳の子どもで、桂木はすでに大人。心が通わないまま、桂木の教育で成長した暁人は、桂木への強い思いを持ち続け、物語の早い段階で、半ば無理やり身体の関係を持つようになる。9歳で久世家に引き取られ、生家に二度と戻ることを許されず、先代の当主(暁人の亡父)の期待に応えるため早く大人になるしかなかった桂木は、その情熱にさらされて、変わっていく。何度も交差しながらすれ違う2人の恋の行方は、最後までまったく先が読めず、目が離せない。

(C)日高ショーコ / 徳間書店 2018

■その2 成長する男たちのかがやき

 性格的に、暁人は柔軟で、桂木は頑な。10歳で登場し、見た目にも立派な青年に成長する暁人は、成人を待たずして若き子爵として久世家の事業に采配を振るようになる。そして、一途に自分に向かってくる暁人の影響を受けて、桂木も人間的に大きく変化していく。特に後半は、仕事でも恋愛でも、桂木の相当なこじらせぶりが描かれ、怜悧な美貌の裏側が見えてくる。そんな2人の成長も、大きな見どころ。恋愛ではすれ違いばかりだが、2人とも仕事になると周囲を圧倒する敏腕ぶりを発揮するところも、惚れ惚れとさせられる。

■その3 脇役たちの人生も描かれる大河ロマン

 主要な登場人物たちは、明治という時代で、家柄、立場、過去の傷など、簡単には変えられない、捨てられないなにかに縛られながらも、それぞれの人生を懸命に生きている。全8巻を通してフォーカスされるのは暁人と桂木の恋愛だが、その家族、学友、仕事相手、社交界で交流するサブキャラクターたちの人生も活写され、物語に奥行きを与えている。『憂鬱な朝』は久世家三代にわたるドラマを中心に描かれる群像劇であり、壮大な大河ロマンなのだ。

 というわけで、ついに、カタルシスのある見事な完結を見せた『憂鬱な朝』。間違いなく、日高ショーコの代表作になるだろう。完結を機にぜひ一気読みして、明治の時代に生きた彼らのロマンに浸ってみてほしい。

文=波多野公美