1現場で5万円稼ぐAV男優の世界――DVに苦しんだ著者が明かす貧困を脱出する方法

社会

公開日:2018/10/29

『貧困脱出マニュアル』(タカ大丸/飛鳥新社)

 日本はアメリカや中国に次いで世界第3位の経済大国だ。しかし昨今は「貧困」が社会問題化している。平成28年に厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査」を見ると、日本人の貧困率は15%以上にのぼるという(正しくは「相対貧困率」といい、その詳細は同データで確かめてほしい)。

「貧すれば鈍する」という言葉の通り、人は貧しくなるほど人間らしい生活ができなくなる。食事や趣味はもちろん、結婚や子育てすら思うようにできない。ならば貧困から脱出する方法はないのか。人並に慎ましい人生を歩む希望はないのか。

『貧困脱出マニュアル』(タカ大丸/飛鳥新社)は、書籍のタイトル通り、貧困から脱出する25の方法を紹介したものだ。著者は、自身も貧困やDVに苦しんだ経験のあるトップ翻訳家、タカ大丸さん。その内容の一部を少しだけご紹介したい。

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■食いっぱぐれない超優良業界「相撲」

 貧困を決定づけるのは、やはり職業だ。ここ十数年で日本の非正規雇用者は激増し、貧困率を押し上げる要因となっている。ならば金のもらえる場所へ転職するしかない。その1つに「相撲」がある。

 相撲界といえばさまざまなイメージがわきあがるが、「貧困脱出」という点ではこれ以上ない。まずは本書に記載されている「式秀部屋」の募集要項を抜粋したい。

式秀部屋では新弟子を随時募集しています。中卒以上23歳未満の身長167cm体重67kg以上(3月は中3のみ165cm 65kg以上)が合格基準です。相撲経験の有無は不問です。

 身長と体重がクリアできれば、プロになる上でここまで敷居の低い競技は他にないだろう。では、賃金はどうだろうか。

 相撲の世界は序の口から始まり、序二段、三段目、幕下とあがっていく。そして十両から月給がもらえるようになる。103万6000円だ。手取りにして90万円程度。しかもこれは基本給で、「餅代」と称されるボーナス、勝ち越し分の手当てなど、手当てが非常にぶ厚い。ちなみに横綱の基本給は282万円。筆者もちまちま原稿なんて書かずに力士を目指せばよかった。

 さらに重要なのは、十両になるまで衣食住が一切タダなことだ。まわしや浴衣などが支給され、ちゃんこ鍋の費用は親方がすべて負担。大部屋の雑魚寝で家賃を払う必要もない。

 なにより幕下までは給料がもらえないものの、1場所当たり15万円の場所手当てがつくので、年間90万円がもらえるという。そして野球のように戦力外通告もない。相撲業界に入ったら、食いっぱぐれないというのだ。

 23歳未満の路頭に迷う知人を見かけたら、ぜひ相撲という選択肢を教えてあげてほしい。

■1現場で5万円もらえる? 万年人手不足のAV男優

「貧困脱出」といえば性産業だ。AV女優は儲かると思われがちだが、風俗と同様、金銭感覚が狂いやすく賞味期限が短いという。

 AV業界でフリーの制作ディレクターを務めるアルゼンチン人のマヌエル・エルナンデス氏が本書の取材にこう答えている。

18かそこらで人前でちょっとパコパコしたら、次の日かその次の日には取っ払いでお金がもらえるんですよ。誰でもそうですけど、簡単に入ったお金って簡単に遣ってしまうから残らないんですよね。

賞味期限が短いんですよ。まあ2年かな。5年やっている人がいれば大ベテランですよ。(中略)賞味期限が過ぎても無駄遣いだけは一流だから、むしろ借金だけが残っていたりします。

 AV業界はお金を稼げる反面、狂った金銭感覚に苦しむことがある。芸能界の“光と影”に似ているようだ。一方、AVの影の立役者、AV男優は万年人手不足だそうだ。

男優は監督の指示を理解して、実践して、絵を作らなければいけないのでものすごく難しい専門職なんですよ。

 男性なら分かるだろうが、そもそも大勢の前で勃起させることが至難の業だ。それもカメラを向けられてあれだけの行為を…まさしくプロ。なによりフィニッシュを自在にコントロールできなければ作品にならない。男性の欲望の塊のような職業だが、実際は相当な素質と努力を必要とする。

 本書では、AV女優とAV男優のヒエラルキーが図で紹介されている。

 これはそれぞれ1現場あたりの手取り額だ。人気男優になると、1日で3つの現場をはしごすることも。トップ男優はかなり稼げそうだ。

 性産業は裸になればいいので、覚悟さえ決めれば誰でもなれる。しかしそれなりの素質が必要で、大金を手に入れたときの自制心も大事だ。この職業は、人生の最後の砦といったところだろう。

■「人類はかつて天然痘やペストを克服した。今度は貧困の番だ」

 なぜ著者は本書を執筆したのか。その理由はタカ大丸さんの過去にあった。本稿の冒頭で触れたように、著者は幼い頃に父親から暴力を受けていた。その悲惨で理不尽な日々は本書を読むと目をそむけたくなる。

 暴力を振るう男の多くは、家庭にお金を入れない。働かずに酒ばかり飲んでいるパターンもある。そうなると家庭は崩壊し、貧困の道を歩む。その辛い経験を背負うタカ大丸さんは、貧困を撲滅したい一心で本書を書き上げた。だから本書の第2章では「DV家庭脱出」の方法も紹介している。

貧困は罪悪であり、病である。すべての罪の根源である。人類はかつて天然痘やペストを克服した。今度は貧困の番だ。できないはずがない。

 著者のこの言葉に胸を打たれる。

 本書はこの他にも「シングルマザーがスマホを武器に子育て費用を抑える方法」「民泊は、いいことしかない」など、実用レベルまで落とした内容がいくつも紹介されている。

 この本の価格は1250円(税抜)。384ページというぶ厚い書籍に対して異例の金額だ。自分の身を削ってでも、貧困にあえぐ人に救いの手を差し伸べたい。本書の1文字1文字に強い信念を感じる。

 著者も述べたように、貧困は病だ。つまり、治せる。貧困は脱出できる。あとは死ぬ気で努力するだけだ。

文=いのうえゆきひろ