赤っ恥をかいてしまう前に…熟練校閲者たちが教える「正しい日本語」

暮らし

2018/10/24

『熟練校閲者が教える 間違えやすい日本語実例集』(講談社)

 正しい日本語は難しい。文章で何かを伝える、僕のようなライターという職業であっても同じ。とりわけパソコンやスマホの“変換”にすっかり頼るようになってしまった今では、思いがけなく誤った表現を使ってしまい、原稿で指摘されて“赤っ恥”をかいてしまうときもある(本来、あってはいけないことだけど……)。

 とはいえ、間違いというのは自分なりの癖が付いていると、なかなか自覚することができないのも事実。そんな日頃の習慣を見直せる一冊が、『熟練校閲者が教える 間違えやすい日本語実例集』(講談社)だ。よく目にする日本語の誤った表現と正しい使い方をおさらいすることができる。

■変換でミスることが少なくなってきた“気まじめ”の表記

 本書で解説してくれるのは、こうしたニュース記事の“最後の砦”でもある日本語のスペシャリスト・校閲者たちだ。いつぞやの石原さとみが主演したドラマでも話題を集めた職業だが、彼らは日々、僕らのような記者やライターが書いた記事の誤字脱字、意味の取り違えなどと戦っている。

 さて、それではさっそく本書より一つの例文を紹介していきたい。

「いかにも気まじめそうな、三十歳ぐらいの男が受け付けをしていた」

 こちらは実際に、小説誌で掲載されていた短篇の一文である。すでに読者の手元に渡っている文章だが、じつは、この中には誤りが潜んでいる。答えは「気まじめそうな」の「気」。本来、「混じりけのない、自然のまま、純粋な」という意味を持つ「生」をあてがうのが正しい。

 とはいえ、平仮名から変換してみたところ筆者のパソコンでは「生真面目」もしくは「生まじめ」と表記された。この言葉が誤用されていたのはおそらく、手書きで原稿を書いていた時代なのかもしれない。

■痛みや緊張を抑え込むのは“沈静剤”と“鎮静剤”のどっち?

 パソコンやスマホで変換していると、入力中に変な文節で区切られてしまうときもある。それはおそらく日本語入力ソフトの性質にもよるのだろうが、時折、以下のような間違いにつながってしまう場合もある。

「沈静剤は、過度の服用にご注意ください」

 一見、そのままスルーしてしまいそうなこの文章。じつは、この中にも言葉の誤りがある。答えは、のっけから出てくる「沈静剤」の箇所。痛みや緊張などを抑え込むという役割からすれば合っていそうなものだが、本来は「鎮静剤」の表記が正しい。

 この言葉が厄介なのは、1文字目の「チン」がどちらも「しずむ、しずめる」という意味を持っていること。しかし、誤りである「沈」はかかる言葉の対象自体が自然に何かを発する“自動詞”として使われ、正しい方の「鎮」は他の何かに働きかけて作用する“他動詞”としておおむね用いられる。

■よく見かける“すべからく”は“すべて”を表す言葉ではない

 何かの状況や状態などを細かく説明するために使われる副詞。以下のような例文も、意外と見落としがちな表現だ。

「平均体重以下の乳児は、すべからく発育不良と見なされた」

 この一文で誤りなのは「すべからく」という箇所。本書では「『すべて』の意味で用いられるケースが目につきます」と校閲者による嘆きも綴られているが、本来は「ぜひとも」「当然」「なすべきこととして」といった意味で、その後に「〜すべし」と続けるのが一般的な例だ。

 本書の校閲者は、口語で「〜すべし」が省略されたことで、「すべて」と混同されたのではないかと誤用の背景を分析している。時折、「全からく」「統べからく」と表記されている場合もあるが、漢字では「須らく」と書くのが正しい。

 本書ではこれらの他にも、さまざまな例文や解説が紹介されている。時代により表現や意味が移り変わるのも言葉の面白さであるが、とはいえ、明らかな間違いは正したいところ。いま一度、自分の中の“常識”を見つめ直してみてはいかがだろうか。

文=カネコシュウヘイ