ブラックな労働現場の実態…借金返済のため“マグロ漁船”に乗り込んだ男の話

エンタメ

2018/10/25

『実録ブラック仕事体験記』(裏モノJAPAN編集部/鉄人社)

 過酷な労働環境を強いられるブラック企業。ノルマの強制やパワハラ、サービス残業などのキーワードは、ネット界隈でもたびたび話題にのぼる。そんな現場へ実際に就職して、実態をレポートしたのが『実録ブラック仕事体験記』(裏モノJAPAN編集部/鉄人社)。現場で何が行われているのかを、疑似体験させてくれるような一冊だ。

◎借金返済のためにマグロ漁船へ自ら乗り込んだ報告者

 全19篇のレポートからなる本書。その中から一つ、マグロ漁船で働いた報告者の記録を紹介していきたい。

 借金返済のために“マグロ漁船へ乗せられる”というのは、古くから都市伝説的に流布されている話。とはいえ、この報告者は誰かに強いられて乗せられたわけではない。当時23歳だった報告者は、パチスロをきっかけに借金を抱えていたところ、知り合いから「マグロ漁船で借金を返済した」という話を聞きみずから乗り込んだようだ。

 知り合いの話を聞いた翌週、報告者は地元の漁業組合を訪ねた。組合のオッサンいわく、マグロ漁船には日本近海で漁をする「近海延縄(はえなわ)漁」と、インド洋や大西洋まで行く「遠洋延縄漁」の2つがあるという。

 さらに、両者の給料は段違いに異なる。約1ヶ月で終わる近海漁は1回の航海で手取り20万円なのに対して、おおむね10ヶ月から1年も海上にいる遠洋漁は400万円程度。いずれも給料は陸に戻ってから2週間後に、口座に一括で振り込まれる仕組みだったそうだ。

 そこで、親や友人から60万円、サラ金から120万円ほどの借金を抱えていた報告者は、不安を口にしながらも遠洋漁を選んだ。

◎翌日から始まった「いったいいつまで…」と言いたくなる作業

 航海が始まったのは2009年2月。報告者が乗り込んだのは、テニスコートを縦に2面並べたような大きさの船だった。船内は、マグロ漁の主現場になる甲板デッキ、大きなテレビも設置された乗組員たちの食堂、獲れたマグロをマイナス60度で冷凍保存しておくための魚艙などからなる。

 居室に荷物を置いたあと、手渡されたのはカッパ作業着の上下と軍手、無地の白Tシャツ30枚。その後、食堂に全23人の乗組員が集められた。船頭や一等航海士などの幹部を除くと、報告者と同じような立場で乗り込んだ者が16名。そのうち日本人は9名のみで、外国人の方が格段に多かったという。

 そして、翌朝からさっそく作業が始まった。リーダーの指示に従って、デッキへ1列に並ぶ乗組員たち。「作業開始!」の号令をきっかけに、報告者たちは慣れないながらも「投縄(とうなわ)」に打ち込み始めた。

 目の前にあるのは、電動リールに巻かれた太い「幹縄(みきなわ)」。さらにそこから枝分かれした細い縄の先端ある釣り針に、イワシやアジ、サバといった魚をくくりつけながら延々と海に向かって放っていく。釣り針が手から離れるまでは、10秒かからないくらいというかなりのスピードを要求される作業。

 本音では「いったいいつまで…」と葛藤しながらも、報告者は目の前の作業をひたすら繰り返していた。

◎気がつけば深夜2時。延々と縄を引き上げる1日

 時間は経ち、午後からは先ほどの幹縄を引く「揚縄(あげなわ)」という作業が始まった。電動リールが動き出し、その勢いに合わせてゆっくりと縄を引き上げる報告者たち。エサが付いたままの針や、エサだけが食われたと思われる針が船に戻ってくるのみで、肝心のマグロの姿はどこにもない。そんな状況が、4時間ほど続いた。

 そして、縄を引っ張り始めてから5時間後。報告者たちを束ねるリーダーが「かかってる!」と大きな声を上げた。リーダーを先頭にして、ゆっくりと縄を引き上げる乗組員たちの前に現れたのは体長200センチ、160キロの1匹のマグロだった。計測が終わると、すぐさま解体されたマグロは魚艙に収納された。

 その後、揚縄が終了したのは0時。2200本の針でかかったマグロは25本であったが、報告者が聞いたところだと取れ高は「ごく普通」だったそうだ。デッキの掃除や道具の整理整頓などの雑務を済ませて、報告者が寝床に入ったのは深夜2時。そのときにはすでに、腕にチカラが入らないほどだったという。

 本書にはこのほか、多岐にわたる労働現場の実態が綴られている。ブラックな環境といっても千差万別。そのすべてをじかに味わうというのもなかなか難しいところではあるが、写真を交えた数々のレポートから現場の生々しさがきっと伝わるはずである。

文=カネコシュウヘイ