海外でコミュニティに溶け込むコツは? 元サッカー日本代表選手によるグローバル社会で活躍する方法

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公開日:2018/10/30

『日本人が海外で成功する方法』(松井大輔/KADOKAWA)

「グローバル社会」という言葉が一般化して久しい。誰もが国籍に関係なく活躍の場を求め、成功のチャンスを手にできる時代はすでに始まっている。しかし、言語や生活習慣の壁がネックになって海外に飛び出せない人は少なくない。先進国の中でも国際的な発想が薄い日本では、なおさらグローバル社会に乗り遅れてしまう可能性がある。

 海外でも充実した仕事ができる日本人を目指すなら、前例を見習えばいい。スポーツ界では、数々の日本人が海外進出を果たし、注目を集めてきた。元サッカー日本代表として2010年W杯にも出場した松井大輔さんの著書、『日本人が海外で成功する方法』(KADOKAWA)には、幅広い業種に応用できる考え方が満載だ。

 松井さんのプロ生活は移籍の連続である。日本も含めて5カ国、11チームを渡り歩き、30歳を超えてもブルガリア、ポーランドといった新天地に移籍を果たしている。しかし、こうした経歴はヨーロッパのサッカー選手だとごく普通だ。日本人はどうしても「結果が出ないなら出るまで頑張る」と考えてしまう。対して、海外の選手は「結果が出ないなら環境が合っていない」と割り切り、すぐに移籍先を探す。決して長くはない選手としての寿命を有効に使うための発想だ。日本人は海外進出だけでなく、転職すらも深刻に考えてしまう傾向がある。ただ、相性の悪い職場で悩み続けるよりも、国内外を問わずに転職先を求める自由さは必要だろう。

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 海外での生活習慣の違いについても、松井さんはおおらかに捉えている。たとえば、毎日の食事は生活するうえで重要に思われがちだ。特に、スポーツ選手なら栄養管理のため、献立には神経質になる人も多い。しかし、松井さんは「自炊のときはパスタばかり茹でていた」と強いこだわりは見せない。文化が変わっても気にしないほどの図太さは、海外で暮らすうえでむしろプラスになるという。

 より深刻な問題はやはり語学だろう。学生時代は英語の授業が苦手だった松井さんにとって、初めての海外移籍でフランスに来てからは、語学の習得に苦労したという。だが、「語学力がないとコミュニケーションは取れない」という考え自体が、内向的で真面目な日本人らしいといえる。松井さんは片言のフランス語しか話せないときからチームメイトに自分から話しかけ、友人を作っていた。サッカーに関する専門用語さえ覚えればプレーはできるし、日常会話は単語を並べるだけでも問題はない。ちなみに、松井さんなりの社交術は、男性陣には参考になるかも。

僕が新たなコミュニティに入り込む時によく使っていた方法は、ズバリ「下ネタ」。

 会話が盛り上がるのは当然だが、そもそもこうした下らないことも勇気を出してできるかどうかで、海外向きの性格かがわかるのだと松井さんは説く。

 そのほか、日本人の感覚からすると驚くような場面が海外では続出する。試合中のミスを監督から責められたとき、「他の選手のせいにする」ことも覚えなければチームで生き残っていけない。日本人のようにすぐ謝罪してしまうと、責任を押し付けられるだけだからだ。また、練習中に取っ組み合いのケンカをしていた選手同士が、仲直りをしたわけでもないのに翌日には平然と練習場に来るのも日本では考えられない。

 日本人は誠実で、気配りのできる人種である。その点は海外と比べても美徳だが、押しの強い人種と接するとき、損をしてしまうことも珍しくない。松井さんは日本では日本人らしい協調性を重んじながらも、海外ではしっかり自己主張をするよう切り替えてきた。グローバル社会で求められるのは「外国人のようになる」ことではなく、松井さんのように「さまざまな価値観を認め、使い分ける」柔軟性なのだろう。

文=石塚就一