ホテルとは人間関係の交差点

公開日:2012/4/1

HOTEL (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:石ノ森章太郎 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

巨大ホテル―プラトン。そこはさまざまな人間が行きかい交錯し、小さなドラマを育む舞台となっています。
マネージャーの水野という男性が一応の主人公という体裁を取っていますが、「HOTEL」のおもしろ味はズバリ主人公の活躍ではなく、お客さんの様子であり、従業員であり、経営者であり、いわゆる群像劇が持ち味になっているんです。

advertisement

つかみの一話目なんて水野がちらっと出るだけで、ページの多くが宿泊客に割かれているんですよ?
それを見ただけじゃ、もう「これってどういうお話なんですか?」と普通なら訝しんでしまいますよね。しかしオムニバス形式で一話完結型のこのスト―リーはそれぞれのエピソードを通してしっかりとホテルの物語として成り立たせているんです。誰一人欠けてもこのドラマは成り立ちませんよと言われているようなそんな気にさせられます。

しかし一方で、水野がしっかりと責任ある行動を取ろうとするあたり、とても好感が持てます。とても普遍的なテーマなんですが『人情と資本主義の対立』とでも言いましょうか。ホテルとしての商売をこなした上で、交錯する人間関係をそっとすくい取ってあげられる、そんな度量があるように感じられますね。

例えば、若き日の水野のエピソードがあるのですが、彼は長らく滞在する身寄りのない老人と親しくなります。しかしそれを良く思わない上司から接触を禁じられてしまうのです。老人はそれから間もなく死去してしまいましたが、実は自身の莫大な遺産をすべて水野に相続させる手筈を整えていたのです。水野はそれを受けて当初こそ驚いていたましたが、そのお金をそっくりそのままホテルプラトンに寄贈していまいました。「このお金で出来る限り老人が滞在した部屋を借り続けたい」との思いからの行動で、彼は老人との思い出を大切にとっておきたかったのです。このエピソードで水野の人情味あふれる人格が良く分かっていただけるかと思います。

有象無象が渦巻くホテルは毎日のように大小問わず事件が起こります。あまり関係がないように思われた人間でも宿を共にすれば、そこで何が起こるかは予測不可能です。けれどそんな偶然の重なりがホテルが舞台だというだけでとても現実的に感じられるのはなぜでしょうね。

本作はそんな人間の運命の糸が絡みあった作品になっています。どうです、あなたもホテルプラトンの日常を覗いてみませんか?


やり手マネージャー水野登場です

ホテルの商売の根幹とはをはっきり断言してします

若き水野と心を通わせた老人。長らく滞在する間に内装が老人の自宅のように…

高級ホテルであれど、必ずしも綺麗であるとは限らないのです。汚れ役をこなす従業員も必要ですよね

マネージャー水野の粋な計らいです (C)石ノ森章太郎/小学館