50代はもっと楽しい! 人生をますます軽やかに豊かにするリアルな暮らしエッセイ

暮らし

公開日:2018/10/29

『50歳になるって、あんがい、楽しい。』(岸本葉子/大和書房)

 たとえ自分が何歳でも、次の年代に移る時には少しだけ心がざわつくもの。20代から30代に移る時は「若い女性」からの卒業を意識したし、40代に入る時は「不惑」らしい落ち着きを…と少し肩に力が入っていた気がする。では50代になる時は?

 微妙な気持ちの綾を軽やかに言語化してくれたのが『50歳になるって、あんがい、楽しい。』(岸本葉子/大和書房)だ。1961年生まれの著者は「おひとりさま」先駆者のひとりとして時代をしなやかに生きてきたエッセイストで、日々の暮らしや旅、時には介護やがんの治療体験を綴った文章などで知られる。

 本書は、50歳の誕生日をはさんだ数年間を綴ったエッセイ『40代のひとり暮らし』(ミスター・パートナー)『40代、ひとり時間、幸せ時間』(ミスター・パートナー)『五十になるって、あんがい、ふつう。』(ミスター・パートナー)を1冊にまとめて加筆編集したものだ。ひとりの女性の等身大の暮らしが記されたページは、日記のような、楽しいおしゃべりを聞いているような親密なリラックス感に満ちている。

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 近頃テレビや新聞、ネットニュースなどから伝わってくる「おとなの女性」像は、仕事もプライベートも美貌すらも妥協しない“輝く女性”と、家庭や職場の重圧で“疲れている女性”の両極端ばかりのように見受けられる。しかし地に足の付いた視点で本書が見せてくれるリアル50代ライフは、同年代の女性はもちろん、若い世代にも肩の凝らないロールモデルとしてこれからの生き方を広げてくれるだろう。

「ビミョーな年齢の40代」というタイトルで始まる第1章。安定した暮らしのリズムに心地よさを覚えつつも、過ぎ去りし20代、30代の頃のアクティブさにふと思いを馳せてみたり、これまで興味のなかったパワーストーンの美しさに惹かれ、ペンダントを手に入れたりと、揺れ動く気持ちが生活の中にある年代だ。

「もうすぐ50歳、なんだか不安」な40代終盤。お肌の手入れに栄養クリームを取り入れ、健康美への意識も高まる年頃。親の介護や自分の老後に掛かる費用を試算して少しシリアスな気持ちになったりと、近づいてくる「50」の響きを一番意識していたのはこの頃。

 そしていざ迎えた50歳。40代の終わりには多少なりとも緊張を感じていた50歳の誕生日だったが、実際はいつもどおりに老父と過ごす普通の日曜日だったという。そう、「50歳になるって、なあんてことなかった」という第4章のタイトルそのままに。

 特に節目らしいものも感じず過ごしてきたが、かつてあれほどハマっていたパワーストーンを最近は手に取らなくなっていたことに気付く。必要なタイミングでパワーを与えてくれていた石に感謝し、自分でも気付かぬうちにさまざまな「その時期」が過ぎ去っていたことに改めて感じ入る著者。役目を終えた石を川に返すように、築きあげてきたこだわりも執着なく手放すことへも思いが至る。

 そのほか、旅のスタイルや理想の男性像、こだわりのインテリアや老眼鏡デビュー、人とのかかわり方…などの暮らしのさまざまが、時にはほっこりと、時にはしっとりと描かれている。日々の暮らしを大事にする著者らしく食の話題も豊富で、特に尾道への旅行の際に訪れた、向島という小さな島でしか飲めないビン入りミルクセーキのくだりなど魅力がたくさん。

 穏やかなリズムと語り口で綴られる日々の暮らし。夏が終わるのを恐れていたけれど、訪れた秋は豊かで楽しいものだった——。そんな気持ちで50代を迎えられる1冊であった。

文=桜倉麻子