「あさイチ」で注目を浴びた“ディスレクシア”の16歳天才画家が、衝撃の絵本作家デビュー!

文芸・カルチャー

公開日:2018/11/2

『ダビッコラと宇宙へ』(濱口瑛士/白泉社)

「ディスレクシア」という言葉を聞いたことがあるだろうか。失読症、識字障害などという言葉のほうがわかりやすいかもしれない。知能や理解力に問題はないのに、読み書きに困難を抱える一種の学習障害だ。言語IQは133もあるのにかかわらず、文字を書くのが苦手なために学校では評価されず、集団行動になじめなかったという濱口瑛士さんもそのひとり。「あさイチ」や「報道ステーション」などで紹介され、注目を浴びている16歳の少年画家だ。

 2015年に開催された個展に際し、濱口さんはこんな言葉を寄せている。「私の中の小さな魂の欠片たちを描きました。私の絵を見て、何かしらの感情を皆様と共有できれば幸いです」。3歳の頃から描き続けてきた絵は、彼にとって文字に変わる大切な言葉なのだ。そんな彼が16歳になった今、満を持して刊行するのが絵本『ダビッコラと宇宙へ』(白泉社)である。

 先生に怒られた日の夜、“ぼく”はペットで金魚のダビッコラとともに冒険に出かける。

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目をとじると、妄想がはじまる。ほら、雲のきれまからサナダ鳥が、ふわふわ窓の外に飛んできた。サナダ鳥は、鳥じゃない。空飛ぶ象だ

 そんな独創的な発想からはじまるこの絵本。飛行船のように空気でできているサナダ鳥に乗って旅する世界は、色鮮やかな“異形”に満ちている。何もかもが不思議で、へんてこで、だからこそ怖くもあるけど、おもしろい。にぎやかな市場で売られた隕石パン、隕石パンにそっくりなファル星人の迷子、仲間を増やすためにキノコに変えてしまうキノコ星人、古代の神殿におそろしい王様…。迷子のファルっ子のお母さんを探しながら、ぼくは奇想天外な世界を旅していく。

 何もかもがうまくいかなくて、世界に自分だけがひとりぼっちのような気がしてしまう夜は誰にだってあるだろう。そんな読者のさみしさに、濱口さんのイラストと文章はそっと寄り添ってくれる。緻密に描き込まれる一方でその筆致はとてもやわらかく、物語全体が愛情にあふれているのだ。

 そう――文章も、なのである。冒頭にも書いたとおり、濱口さんはディスレクシア。本来なら文字を書くのが通常以上に困難だ。けれど本作の文章は、すべて濱口さんの手によるもの。決して「障害なのにすごい」と言いたいわけではない。大事なのは濱口さんが“乗り越える強さ”を真に備えた人だということだ。

 前述の個展の際に濱口さんは「(集団生活になじめず、孤立していた)辛さを紛らわすためにも、頭の中、胸の中にあるものを吐きだす必要があったのかもしれません」とも語っていた。ひとりのさみしさ、みんなと同じことが同じようにできない苦しみと同時に、内側の世界をひとり豊かに育んでいく楽しさを知っていた濱口さんだからこそ、これほど優しい物語を紡ぎだせたのではないかと思う。

 なんだか気分が冴えないとき、何かうまくいかない気がして絶望しかけてしまったとき、そんなときはこの絵本を開いてみてほしい。“ぼく”とダビッコラと宇宙を旅しているうちに、心の隙間がいつのまにか、そっと埋まっているはずだから。

文=立花もも