『おはよう!スパンク』を覚えてる人必見、ノスタルジックなやさしさ溢れるグルメ漫画

マンガ

更新日:2018/11/5

『しーちゃんのごちそう』3巻(たかなししずえ/少年画報社)

 あなたが子供のころの、思い出の味は何ですか?

「お母さんが作るロールキャベツ!」「給食で、毎回楽しみにしていたカレーライス」「学校の帰りに、こっそり買い食いした、たこ焼きかな…」など、思い出の味はさまざま。大人になって、いろいろなおいしいものに触れ、どんなに“グルメ経験値”が上がったとしても、思い出の味は、いつまでも大切なものです。『しーちゃんのごちそう』3巻(たかなししずえ/少年画報社)は、作者自身の思い出の味の数々が、どこか懐かしさを感じさせるやさしい画風で描かれた作品です。最新巻の第1話を少しのぞいてみましょう。

■玉子焼きは甘い派? 遠足の思い出といえば…

 舞台は今から50年以上前の千葉県鴨川市。主人公の小学生・しーちゃんは、小さな商店を営むお父さんと、料理とお裁縫が得意なお母さんと三人暮らし。毎日のびのびと楽しくすごしています。

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 その日、しーちゃんの学校は春の遠足の日でした。遠足の大きなお楽しみといえば、お弁当です。しーちゃんはお母さんに、「甘い玉子焼きつくって!」とリクエスト。お母さんが作る玉子焼きは、砂糖だけではなく、醤油をちょっと入れて甘みを引き立たせた、おいしい玉子焼きなのです。

 さて、遠足は、菜の花畑の近くの広場に着いたところで、お弁当の時間になりました。仲良しのお友達と、それぞれのお弁当を見せ合いっこします。しーちゃんのお弁当は、ごはんと梅干し、そして甘い玉子焼き。当時のお弁当のおかずはシンプルで、現在のようなキャラ弁などは皆無。ちょっとおしゃれな家の子のおかずは、オムレツとウィンナー。他には、ごはんの上に目玉焼きを豪快に乗せたお弁当を持ってきている子もいます。

 そんな中でひとり、もじもじしている子がいました。聞けば、家族が漁に出たためにお弁当が準備できず、自分でごはんだけ詰めてきたと言うのです。一見かわいそうなのですが、その子は違いました。皆のあこがれアイテム「のりたま」を、大袋のまま持ってきたのです。しーちゃんたちは、その子にのりたまと自分のおかずとの交換を次々オファーします。みんなのおかずが少しずつ集まった、その子のお弁当は、色鮮やかな菜の花畑のように輝くのでした…。

■昭和を再発見して、漫画の世界を広げてみよう

 本書ではこんな遠足のエピソードの他にも、ハンバーグやコロッケなど、子供のころの思い出の味が、四季の移り変わりや、当時のご近所づきあいとともに紹介されており、読むと食欲が刺激されるだけでなく、どこかほっと懐かしくなる気持ちになることは間違いないでしょう。それぞれの場面には、現在ではあまり見かけなくなった、井戸水をくみ上げるポンプや火鉢などの小物も端々に登場します。本書を開いて、当時の生活を想像してみるのも楽しそうです。

 作者のたかなししずえさんは、1980年代に『なかよし』で連載され人気を博し、アニメ化・映画化もされた『おはよう!スパンク』を代表作とするベテラン漫画家。グルメ漫画と銘打った作品は今でもたくさんありますが、こんな“昭和っぽい漫画”を手に取って、現代の漫画との読み比べをしてみるのもおすすめです。本書がきっかけで、あなたの漫画の世界がより一層広がりますように。

文=水野さちえ