いよいよ最終巻! 16年続いたギャグ漫画『 ストレンジ・プラス』の魅力とは?

マンガ

更新日:2018/11/5

『 ストレンジ・プラス』(美川べるの/一迅社)

 今から16年前のことです。当時、猛烈にハマっていた漫画『最遊記』が、連載を『コミックZERO-SUM』という新たな雑誌に移すということで、発売日に創刊号を買いに行きました。そこに新連載として掲載されていたのが『ストレンジ・プラス』でした。

 10年前に家出をし、行方不明になった兄を探しに、とあるスラム街にやって来た恒(コウ)。人探しを依頼するため、街の探偵事務所を訪れたところ、なんとそこで実の兄、巧美と再会する。しかも、巧美は探偵事務所の所長として働いていたのだ。すったもんだの末、恒も見習い探偵として働くことに。その日から、奇妙(ストレンジ)な人たちとの、騒がしい日々が始まるのだった…。

 絵柄は『ゼロサム』らしく、線の細いオシャレ系です。『最遊記』、『破天荒遊戯』、『LOVELESS』など、『ゼロサム』創刊号を飾った人気漫画たちと並んでもまったく違和感がありませんでした。

advertisement

 ところが、第1話の3ページ目で、すぐさま予想を裏切られます。なんと『ストレンジ・プラス』、オシャレに見せかけた、ゴリゴリのギャグ漫画だったのです。

 スラム街にある探偵事務所、セクシーな秘書、ブレイズヘアの大男、謎多き闇医者などなど、海外ドラマのような設定から繰り広げられる、激しいボケとツッコミ。

 ファンタジー色の強い雑誌で、まさかこんなギャグ漫画が読めるとは思わず、大きな衝撃を受けたことを覚えています。

 さて、そんな『ストレンジ・プラス』ですが、来年1月に発売される20巻をもって、なんと最終巻となります。あの衝撃的な第1話から始まり、20巻の200話で幕を閉じるという、らしくないほどの美しい終わり方です。『ストレンジ・プラス』の強烈なキャラたちを紹介すると同時に、既刊19巻の中での、それぞれの名シーンをピックアップしたいと思います。

●ロリショタが売りの28歳所長、巧美(タクミ)

 一見、可愛らしい女の子に見えますが、れっきとした男性。恐ろしいほどのナルシストで、女装もいとわない変人です。巧美がいなければ本作のギャグが成り立たないと言っても過言ではありません。一方で、探偵としての腕は確かなようで、事務所の雇われ所長として仲間からの信頼は篤かったりします。いつからか、尻ネタが多くなり、全裸での登場も増えました。

 そんな巧美ですが、活躍が多い分、名シーンを決めるのが非常に難しいです。が、強いて挙げるとすれば1巻10話「GUN」の回。緊迫ムードの中で突如始まったボード版人生ゲームで、自分のコマを外車にしたところです(車を左ハンドル仕様にする)。以来、人生ゲームをするときは、必ず左ハンドルにするようになりました。

●ツッコミ担当で大抵かわいそうな役回り、恒(コウ)

 本作に欠かせないツッコミ役であり、事実上の主役です。裕福な家庭で育ったボンボンの彼は、登場人物の中では比較的、まともな感覚を持ち合わせています。しかし、いかんせん18歳と若いので、周りの大人たちから適当なウソをつかれると、思わず信じてしまうというピュアな面も持ち合わせていたりします。

 恒の名シーンには、17巻、156話の「DIARY」を挙げます。巧美たちが書いた交換リレー創作日記に、ひたすら恒がツッコミ続けるという話で、ボケのクオリティとツッコミのテンポが強烈な神回です。

●酒に弱く、絵も料理も下手くそな美人秘書、美羽(ミワ)

 所長秘書を務める美羽は、美人でスタイル抜群ですが、事務所の仲間たちからは、あまりそうとは認識されていません。自宅は70リットルのゴミ袋が散乱する汚部屋で、座布団に座ると謎の汁が溢れ出します。絵を描かせれば『不安の種』(中山昌亮)に登場しそうな、怪奇なものを生み出したりもします。

 そんな美羽の名シーンは、18巻、170話「GIRLSTALK」。美羽が作ったスイーツが放つ異臭によって、恒の鼻がもげ、巧美の体がクリーチャー化したうえに人格を失います。しかし、30秒煮込んだ後、一切の汁気を残さずスイーツが消滅します。料理下手な人を表す素晴らしいエピソードでした。

●なぜか女装しがちなガチムチオタク大男、正宗(マサムネ)

 第1話での初登場シーンは、イカつい用心棒みたいな感じだったのが、その直後、一瞬でギャグキャラに変貌します。正宗に限らず、『ストレンジ・プラス』のキャラクターは、基本的に見た目がオシャレなので、ギャグシーンでのギャップが秀逸です。マッチョな巨漢で事務所の力担当ですが、中身は漫画、アニメ、ゲーム大好きなオタク。

 彼の名シーンには、2巻に収録されているEX#1「RING&TEST」をチョイスしました。恒が探偵として一人前になったかを確かめるテストにて、オズ先生のふりをした正宗が、美羽に絞り殺されそうになるシーンが個人的にツボでした。地味なのに的確に笑いを取っていく正宗が好きです。

 めちゃくちゃふざけた内容ですが、いまだ回収されていない謎も結構あります。なかでも巧美と恒がどうして実家に戻りたくないのか、2人が何から逃げ続けているのかは19巻でもまだ明らかにされていません。20巻でその秘密が解明されてほしいなと思いつつも、できれば最後まで、ギャグいっぱいのお話で終わってほしいなと思ったりもします。終わってしまうのは寂しくもありますが、長編ギャグ漫画の大団円がどうなるか、今から楽しみです。

文=中村未来(清談社)