「とろろうどんってなんかエロい!」 うどんに絡めた妄想から始まったムズキュンな恋の行方は…

マンガ

更新日:2018/11/12

『うどんの女』(えすとえむ/祥伝社)

 グルメ漫画には、プロが腕によりをかけた料理が描かれていたり、現実ではお目にかかれないような煌びやかな食材が登場したりすることが多い。しかし、『うどんの女』(えすとえむ/祥伝社)は他のグルメ漫画とは違い、うどんしか出てこない。にもかかわらず、食欲が自然と掻き立てられ、妄想力までもがたくましく高められてしまう不思議な1冊だ。

 本作は年上女と草食系男子の恋愛模様にスポットを当てた、まったく新しいグルメ漫画である。ヒロインである村田チカ(35)は、バツイチで出戻り中。チカは大学の学食内にあるうどんコーナーで働いており、毎日うどんばかりを注文しに来る油絵学科の男子学生・木野(21)に興味を持ち始める。「この人が毎日うどんを注文するのは、もしかして私に気があるからなのでは…?」そう思い始めたチカと同様に木野も、頼んでもいないのに大量のネギや天ぷらをうどんに入れてくれるチカを意識し始めるようになっていくのだ。

 本作のおもしろいところは、うどんに絡めて2人があらぬ妄想をつぎつぎと繰り広げながら、徐々に距離を縮めていくところにある。特に木野は、チカをうどんに重ねて見るあまり、うどんをモチーフにした作品を描き始める。そして、なんの変哲もないとろろうどんもエロく感じてしまったり、うどんに若干の性的興奮を覚えるまでになったりしていく…。

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 作者の表現力や画力が見事であるからこそ、こうした木野の妄想は読者の心にダイレクトに響き、共感や一体感を生む。作中では麺の1本1本までが丁寧に描かれているので、見慣れたはずのうどんという食べ物が、なまめかしく魅惑的にも見えてくるのだ。

 他のグルメ漫画とは違い、一貫してうどんのみを描いている本作は、そのメニューのシンプルさが逆に食欲を掻き立ててくれる。うどんをずるずるとすする2人の姿は、読者の空腹を誘い、うどんを恋しくさせるはずだ。

 1杯のうどんから始まった不器用な恋にはコメディ要素も満載だが、意外と奥も深い。王道の恋愛漫画とは異なる本作は、うどんのおいしい食べ方についても考えたくもなるグルメ漫画である。

文=古川諭香