自分の思いを効果的に伝えるには? 円滑なコミュニケーションのために必要なこと

暮らし

公開日:2018/11/6

『伝わるしくみ』(山本高史/マガジンハウス)

 過去に、人とのコミュニケーションが上手くいかなかった時のことを思い出してほしい。たとえば、自分の発言に対する相手からの返事に内心「えっ、そういうことではないのに…」と思ったが何も言えなかった。または、相手と積極的に話すことでなんとか距離を縮める努力をしてみたが、いつまでたっても会話が弾まず、やがて疎遠になってしまった…。そんな経験をしたことがある人は少なくないのではないだろうか。

『伝わるしくみ』(山本高史/マガジンハウス)は、コピーライターである著者からしても「コミュニケーションはそもそも難しいのだ」を前提に「自分の思いを、言葉で効果的に人に伝えること」ができるまでを、フローチャート化するとともに、解決方法まで導く、言葉で「伝える」ための1冊である。

 まず、著者は言葉が伝わらない原因として次の4つをあげている。

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1.受け手という存在を認識・理解していない。
2.想像や発想のための知的経験値「脳内データベース」が乏しい
3.受け手との「共有エリア」に立っていない。
4.言葉は思いのほか大変だ。

 本書は上記の4つの原因を順に解説していくことになるのだが、本稿では1の「受け手という存在を認識・理解していない」をもう少し掘り下げてみたいと思う。

 会話の関係性として人物を表現するとき、おそらく多くの人は筆者が冒頭で書いたように「自分と相手」と表現するだろう。だが、著者は違う言い方をする。言葉を発する側を「送り手」とし、言葉を受けた側を「受け手」という。

「送り手」と「受け手」は会話だけではなく、メールやプレゼンテーションなどのあらゆる「コミュニケーションの両端に必ず存在するのである」と著者は説く。さらに「送り手」が発する言葉は、いつも“受け手への「提案」である”と言い切る。それはどういうことなのか。本書から、送り手からの発言とその先に隠れている提案例を挙げてみる。

「月曜日はどうかな?」ならば「会うのは月曜がいいと提案しているのであるが賛成してはどうか」。
「月曜日は無理だ」ならば「月曜日は無理なので他の日にする(もしくはとりあえず今回の約束は流す)ことを提案しているのであるが賛成してはどうか」。
「今週は無理だ」ならば「来週以降にしてくださいと提案しているのであるが理解してはどうか」。

 確かにそうなのだ。自分が送り手になる場合を想像してみれば、発言自体は「どうかな?」と遠慮しがちだったとしても、気持ちとしては「こうならないかな」「こうしてほしい」と先へ先へと動いているのだ。その段階を著者は「言葉は欲望を提案している」と表す。

言葉を欲望の発露であると理解すると、腑に落ちることがある。
欲望だからこそ、送り手の伝える言葉は受け手に受け入れられないこともあるのだ。
逆に思い通りにいくものだと考えることこそ無理がある。

伝えることの困難さが徐々に見えてきた。

 このように原因を章ごとに掘り下げながら、前半は読者に「インプット」を促し、後半は「アウトプット」をするための具体的な手段が書かれている。「脳内データベース」の増やし方、送り手として「共有エリア」に立つ場合の、コピーライターならではのスムーズな発想方法など、コミュニケーション能力の向上につながる「しくみ」となっている。

 著者の山本高史氏は、大学卒業後、大手広告代理店で長年にわたりコピーライターとして活躍、数々の広告賞を受賞している。現在は事務所を設立してクリエーティブディレクターとして活躍を続ける一方、2013年からは大学の社会学部教授も務めている。

 言葉が伝わるまでのサイクルを何度も繰り返してくれる本書。読み終える頃には、新たな「インプット」を早く誰かに「アウトプット」したくなっているだろう。繰り返し試していくことでコミュニケーションは、きっと上達していく。

文=小林みさえ