インフルエンサーになるなら、テーマはどうやって磨く? 情報生産者の大切なポイント

ビジネス

更新日:2018/11/21

『情報生産者になる』(上野千鶴子/筑摩書房)

 デジタル社会の現在ではさまざまな情報が至るところに溢れている。デジタル化以前からあったテレビや書籍、さらにスマートフォンなどといったさまざまなものを介し、私たちは日々、多くの情 報を吸収し続けている。

 そんな時代だからこそ、情報を受け取るだけではなく、自ら発信する「情報生産者」になることで人生はよりおもしろくなると提唱している『情報生産者になる』(上野千鶴子/筑摩書房)には、情報化社会を楽しく生き抜いていく術が詰まっている。

「自分が情報生産者になる」というフレーズを聞くと、少し身構えてしまう方もいるだろう。しかし、自分が伝えた情報が誰かの耳に届き、心の中に残るという体験は何にも代えがたい充実感を生み出してくれる。実際、ライターとして日々、読者に情報を発信している筆者も情報生産者の魔力に取りつかれているひとりである。

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 そこで本稿では、上野氏が教えてくれる「情報生産者になるために大切なポイント」をいくつかご紹介していきたい。

■情報生産者は同テーマの情報をくまなくチェックすべし!

 情報を発信しようとするときに最初に困るのは、問いや課題の立て方だ。自分が伝えたいことを言葉や文字にするには、何をテーマにし、どんなセンスで現実にメスを入れていくのかが重要になる。

 上野氏によれば、こうしたときに重要となるのが「答えの出る問いを立てること」と「手に負える問いを立てること」なのだそう。私たちには時間や資源が限られているため、自分にあったスケールの問いを打ち立てていかなければならないのだ。

 そして、自身の独自のセンスを活かしたい!と思っている方ほど、まずは自分が発信したいと考えているジャンルの情報をくまなくチェックしていく必要がある。すでに似たような誰かがどんな問いを立て、どんな答えを出しているのかを知ることは、斬新な問いを生み出すきっかけにもなるのだ。

■テーマや問いにオリジナリティをもたらすには?

 問いは、どんな「理論(という名の分析道具)」を使って検証していくかによってもまったく違った情報になる。その分かりやすい例として上野氏は、「孤独死はなぜ増えたのか」という問いをさまざまな理論に当てはめ、オリジナリティの出し方を提唱している。

 例えば、統計的比較に耐えられるほど十分な数のサンプルがある場合は、孤独死の傾向を年齢や婚姻歴、親族関係、経済階層、性別といった観点からまとめることができ、地域ごとに孤独死の発生率の高さを比較してみると、深みのある情報を提供することができる。

 そして、時には採用する理論によって、問いをひっくり返してみることもよいという。本稿の例であると、孤独死を問いとして扱おうと決めた裏には孤独死自体を問題だと捉える発信者の気持ちが隠されている。その根本について、「果たして本当に孤独死は問題なのだろうか?」「どうして問題視されるようになったのか?」「いつ誰が問題にし始めたのか?」というように、初めに打ち立てた仮説をひっくり返してみると、また新たな問いが生まれ、オリジナルな情報が発信できるようになる。こうした問題定義ができるようになれば、紋切り型や量産系ではない「情報生産者」になれるのだ。

 情報生産者は広い視野を常に持ち、問いに対してじっくりと向き合っていくことが大切。上野氏は本書内で、情報を扱う心構えも教えてくれるのだ。

■情報生産者になる意義とは?

 情報生産者の最終ゴールは、自分の情報を周りにアウトプット(出力)するところにある。しかし、近年は誰もがネット上で情報を手軽に発信できるため、誤った情報が流れてしまうことも少なくない。そんな時代だからこそ、情報発信者となる前には、上野氏の言葉を噛みしめ、情報を発信する“意義”について考えてみてほしい。

“情報発信者とはまだ見ぬコンテンツを世の中に送る者たち。そしてそれを公共財にしたいと願う者たちです”

 悲しいことに現代では、パソコンやスマートフォンさえあれば簡単に、誰かの情報をコピーすることもできてしまう。しかし、誤った情報を流したり、情報を奪ったりすることによって辛い思いをしてしまう受け取り手の人間がいるのだということを、肝に銘じてほしい。

 良き情報生産者になるにはスキルやノウハウ、セルフブランディング力を持ったり、マーケティング戦略を行ったりしていくことも大切だが、本当に身に付けておかなければならないのは発信する情報への責任感や、「伝えたい」という純粋な想いだ。

 まだ見ぬ情報を生かすか殺すかは、情報生産者の手に委ねられている。私たちは発信した情報が誰かの役に立ったり、笑顔を作ったりしていけるよう、誠実な情報生産者でいなければならないのだ。

文=古川諭香