夜ごとの夢が告げる、死のカウントダウン…戦慄の“感染系”ホラーミステリー!

文芸・カルチャー

2018/11/14

『走馬灯症候群』(嶺里俊介/双葉社)

 忙しい日々の生活を忘れ、夢の世界で子ども時代に逆戻りする。ノスタルジックで心躍る経験だ。しかし、それがもし迫りくる死へのカウントダウンだったとしたら……? そんな恐ろしいアイデアを扱ったホラー小説が刊行された。嶺里俊介の新作『走馬灯症候群』(双葉社)だ。

 あらすじを紹介しよう。文化人類学者の牧野は、不審死を遂げた大学教授・堀越から手紙を受け取った。生前の堀越が追いかけていたのは、「夢喰い」と呼ばれる都市伝説ともオカルトともつかない奇病だ。その病気に罹った者は、人生でもっとも古い記憶を夢に見る。以来、思い出のアルバムをめくるように夢の中の時間は進んでゆき、それが現代に到達した時、死が訪れるというのだ。そんな病気は本当に存在するのか。尊敬する堀越の遺志とレポートを受け継いで、牧野は夢喰いに関する調査をスタートさせる。

 犠牲者を訪ね歩く牧野は、大手通信会社NJTT(新日本電電)社内で、不審死が連続して起こっていることに気がついた。現地調査に向かった彼は、そこで中学時代の後輩である咲元と再会。牧野の予感は的中し、咲元の周辺でも「夢喰い」が原因らしい死が発生する。そしてついに、咲元自身がもっとも古い記憶の夢を見てしまった。夜眠るたび、少しずつ近づいてくる死の足音。牧野は奇病の謎を解き明かし、後輩の命を救うことができるのか?

 無差別に広まり、タイムリミットとともに迫ってくる無慈悲な死。こうしたタイプの“感染系”ホラーは、サスペンスとゲーム性の高さから、ホラーファン以外にも非常に人気がある。代表作はなんといっても、鈴木光司の『リング』とその映画版だろう。

『走馬灯症候群』はそうした一連のホラーの流れを汲むものだが、他にはないいくつものユニークなアイデアがある。まず感染方法。本作で描かれる「夢喰い」は、なんと会話をするだけで感染してしまうのだ。しかも電話線を介した会話もNG。これはシビアな設定で、なかなかに恐ろしい。死へのタイムリミットを告げるものとして、「走馬灯」を思わせる夢を持ってきたところ斬新。随所に著者の着想力が光っている。

 物語の背景になっているのは1990年代初頭。新時代の通信インフラを開発・普及するため日夜仕事に邁進するNJTT社員たちの姿が、活気をもって描かれている。こうした“お仕事小説”としての一面は、当時を知る読者ならより共感できるものだろう。日本経済に勢いがあり、大人たちが真剣に夢を語れた時代。それが単なる舞台設定に終わらず、ストーリーに深く関わってくるのもポイントである。

 著者・嶺里俊介は未知の生命体を描いた『星宿る虫』で、第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞してデビュー。『走馬灯症候群』はその待望の第2作である。サスペンス&ホラー色をさらに強めながら、前向きなテーマ性をしっかり組み込んだエンターテインメントに仕上がっている。今夜眠るのがちょっぴり怖くなる。そんな身近な恐怖を描いた、間口の広いホラー小説だ。

文=朝宮運河