嫌な上司や先輩に暴言を吐かれたら……できるだけ傷を負わずに難局を乗り切るコツ

暮らし

2018/11/19

『逃げ出す勇気 自分で自分を傷つけてしまう前に』(KADOKAWA)

「逃げちゃダメだ」といえば、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇シンジ君の口癖である。大きなプレッシャーにさらされたとき、巨大な敵の恐怖が襲ってきたとき、シンジ君は自ら退路を断って戦おうとする。そして彼のように、職場や学校、恋人との関係でも「逃げちゃダメ」と思いこんでいる人は多いだろう。

 しかし、精神科医のゆうきゆう氏は、

『エヴァ』をご覧になった方なら、その後にシンジ君がたどった過酷な運命と荒廃した精神状態については、よくご存知でしょう。

 と指摘する。そう、我々の社会では必ずしも「逃げない」ことが正解になるとは限らないのだ。ゆうき氏は『逃げ出す勇気 自分で自分を傷つけてしまう前に』(KADOKAWA)で、つらい環境から「逃げる」ことで、心が病まない生き方を実践しようと提案している。

 実際、現代では真正面から向き合うほどに、身動きが取れなくなっていく出来事が多すぎる。仕事でも勉強でも「完璧」が求められるし、SNSでも少しレスポンスが遅れただけで反感を買ってしまう。かといって、「リアルでもネットでも、誰にもかかわらずに生きていく」のは不可能である。我々が抱いているストレスの大部分は「逃げ場所がない」という感覚に根差しているのではないだろうか。また、「逃げる」ことは「恥ずかしい」ととらえられがちで、ひとつの場所で頑張り続ける行為ほど「美徳」とされる傾向は強い。

 そこで、ゆうき氏は「逃げる」にまとわりつくネガティブなイメージを拭い去ろうと投げかける。

後で勝利をもぎ取るために、一時的にその場から持ち出す―これはいわば「戦略的撤退」です。「戦略的撤退」、うん、カッコいい言い方ですよね。どんどん使っていきましょう。

 つまり、ブラック企業から転職するのも、ダメな彼氏と別れるのも、すべては自分の可能性を守るための一手なのである。また、将棋のように「攻めるだけでなく冷静に視野を広げる必要がある」とのたとえも分かりやすい。

 では、具体的にどんな方法で我々は日常の苦しみから逃げればいいのだろう? 本書で紹介されている方法のひとつが、「0.3×5=1.5」理論だ。真面目な人ほど、与えられた仕事を完璧にやり遂げようと思いすぎて、心労が重なっていく。そこで、「適当でいいので、早くやってしまう」方向に考えを切り替えるのである。3割の力でもスピードが5倍になれば、結果的には「1.5」倍の仕事ができる。適当にやって不足した分は、後で調整すればいいのだ。

 そして、できるだけ多くの選択肢を用意しておくのも「逃げ場」の確保につながる。そもそも、受験や就職活動など、人生で第一志望のみを叶えてきた人はほとんどいない。「A案」がダメになったときに「B案」や「C案」へと逃げるのはごく当たり前なのだ。たとえば、デートコースは「晴天時」と「雨天時」の2案を準備しておくと、当日には心の余裕ができるだろう。

 嫌な上司や先輩など、簡単に避けられない相手には「鏡返し」を使って、自分の心だけでも逃がしてあげよう。暴言を吐かれたら「ふざけてんのかとおっしゃいますが、まったくそんなつもりはありません」と、鏡のようにそのまま暴言を反復するのだ。冷静さを失っている相手に有効な話法なので、試してみてほしい。

 ゆうき氏は、幸福を「状況」ではなく「行動」だと定義する。今、幸せになろうとして努力している動きこそ、「幸せになる道」なのだ。だとすれば、不幸な状況でも「自分はここで頑張るしかない」との強迫観念にとらわれている人は、ますます不幸になっていくだけである。幸せを感じ続けるには、絶え間なく行動を起こさなくてはいけない。「逃げる」とはときとして、「一カ所にとどまる」以上に、人生を豊かにしてくれる選択になりうるはずだ。

文=石塚就一