「もしかして発達障害…?」と思ったら――きちんと向き合うために理解しておきたいこと

出産・子育て

公開日:2018/11/22

『発達障害がよくわかる本』
(本田秀夫:監修/講談社)

「発達障害」という言葉はよく聞くものの、果たしてちゃんと理解できているでしょうか。どんな症状があるのか知っておきたい、自分の子どもを調べたいけれど何から始めたらいいのかわからない、という人におすすめしたいのが『発達障害がよくわかる本』(本田秀夫:監修/講談社)です。

 本書は、イラストを多用しながら発達障害についてわかりやすく解説している、いわば発達障害の入門書です。もしお子さんに発達障害の可能性があるとしたら、これからどんな手順で対応していけばいいのか、保育園や学校などでどう対応してもらうべきなのか、公的な支援はどれくらい受けられるのか、そういった親の気になるテーマが盛り込まれています。発達障害にはいくつかの種類がありますが、近年診断されることが増えているという、2つ以上の発達障害が重複しているケースについて、くわしく書かれていることも特徴です。

■まずは「理解」するために専門家の受診を

ASD……自閉スペクトラム症
ADHD……注意欠如・多動症
LD……学習障害
※ほかに、知的障害や発達性協調運動障害など

advertisement

 発達障害の医学的な診断基準「DSM」によると、代表的なものは上記の3つです。1歳半検診でその可能性が指摘されることもあれば、保育園や幼稚園で「ひとりでいることが多い」などと相談されて気づくことも。その前からうすうす気づいていて改めて理解することもあれば、初めて気づいてショックを受けることもあるそうです。ですが、本書で繰り返されるのは、発達障害はけっして病気ではなく、あくまでも「発達の多様性」ということです。それはつまり「身長が高い」などの「特性」と同じことで、生活に支障がなければ“障害”にはならないそうです。

 とはいえ、他の大多数の子どもたちと発達の仕方が違う子どもたちは、とても傷つきやすい環境の中で生きています。少しでもそのストレスを取り除いてあげるには、まず子どもをよく「理解すること」が大事。もし、理解のないまま接していくと、子どもはストレスを溜め込んで、うつやひきこもり、不登校などの「二次障害」につながることもあるのだとか。

 では、どのように子どもの発達具合を理解すればいいのでしょうか。手始めに、児童精神科や発達外来などの専門家を受診しようとする人が多いと思いますが、本書でもこれを推奨しています。むしろ、専門家の診断が必須だとされています。一般の小児科では「大丈夫」「心配ない」などと誤って診断されることもあるためです。専門家の受診は混み合っていることが多く、予約が数ヶ月先になることもありますが、それでもあきらめることなく受診することが大切だ、と綴られています。

 さらに、子どもの特性を正しく理解するためには、前述したような「2つ以上の障害が少しずつ当てはまるケースもある」ことを心に置いておくことが大事です。たとえば、「落ち着きがない」のに加え「勉強が苦手」な場合はADHDとLDが重複している可能性があり、「学ぶのが苦手なうえに集中するのも難しい」という複雑な状態であることを理解しなければなりません。

■専門家は親のサポートを重視している

 子どもの特性がよく理解できた後は、これからどう対応していくかを考えます。家庭内でできること、保育園や学校に対応してもらうべきことなど、さまざまな方法がありますが、どちらにしても親の協力は必須で、それは簡単なことではないかもしれません。

「家庭で親ができること」の項目には、「育てにくい」と感じたときは「子どもを親に合わせる」のではなく、「親が子どもに合わせる」ことが必要だと書かれています。たとえば、会話が苦手な子どもに伝えたいことを、話し言葉だけでなく、ホワイトボードなどを使った文字情報としても伝える、といったことです。

 ルールを大幅に変えることは、親にとって相当なストレスになるはず。そのため、親にかかる負担が大きいことを専門家のほうでも理解していて、多くの専門家は親のサポートにも力を入れているのだとか。専門家に相談するとき、子どものことばかりでなく、親としての悩みやつらさを打ち明けてもいいのだと思えば、肩の荷もおりるのではないでしょうか。また、専門家を選ぶときに「親への理解が深い」ことを優先することもひとつの方法です。

 また、相談する相手は、保育園や幼稚園、学校、病院だけではありません。ほかにも、自治体や支援センターなどの選択肢が本書では紹介されています。子どもの理解者を周囲に増やしていくことは、親の安心や子どもの良い環境づくりにつながるため、ぜひ頭に入れておくといいでしょう。

■思春期までに育てたいのは2つのスキル

 発達障害の子どものために親ができることは年齢ごとに紹介されていて、思春期までには、「できることを積極的に伸ばして自立スキルを育てる」「できないことは無理をせず、最低限のルールを守りながら人に相談するというソーシャルスキルを育てる」という2つが大切だとか。それを習得すれば、大人になってから自分の力で生活し、時には周りの人たちに困ったことを相談しながら、健全な社会生活を送っていくことができるそうです。

 子どもを一人前の大人に育てたいという願いは、どの親にとっても同じではないでしょうか。ただし、ネットの不確かな情報や独自の判断では、その方法を誤ってしまうことも。本書があれば、子ども一人一人に合わせた幸せを考えていくための手がかりとなり、最終的には「発達障害は怖くないんだ」という安心感を与えてくれそうです。

文=吉田有希