かぐや姫は男だった? 名作の登場人物全員男。帝が絶世の美男子に恋焦がれるBL古典

文芸・カルチャー

2018/11/22

『BL古典セレクション1 竹取物語 伊勢物語』(雪舟えま:訳、ヤマシタトモコ:イラスト/左右社)

『竹取物語』といえば、絶世の美女かぐや姫が、多くの男性に求婚される話として、誰もが知っている古典であり、『伊勢物語』は天才歌人色男の在原業平(ありわらのなりひら)が、身分の異なる多くの女性と繰り広げた恋愛話が収められている作品だ。

 男女の恋愛模様を描いたその名古典の登場人物を、全員「男にしてみた」という、ものすごい発想の超訳小説が登場した。『BL古典セレクション1 竹取物語 伊勢物語』(雪舟えま:訳、ヤマシタトモコ:イラスト/左右社)である。

 作家であり歌人でもある著者が古典を読み解き、登場人物全員を男性にして、男同士の恋愛として訳した本作。「古典」や「BL」が好きな方には、たまらない1冊になっている。

■『竹取物語』絶世の美男子が帝につれなく振る舞う理由は…

『竹取物語』は、竹から生まれた絶世の美男子「かぐや“彦”」の物語に。5人の貴公子たちに求婚されるが、かぐや彦は無理難題を突き付けて男たちを破滅に導く。ついに帝の目にも留まるのだが、本人は求婚を受けるそぶりがない。

 帝に対して、畏れ多いかぐや彦の態度に、育ての親であるオキナとジジ(こちらも男同士)はハラハラ。しかし、かぐや彦が帝につれない態度をとるのには、理由があった。自分がこの世界の住人ではなく、いつか月に帰らなくてはならないからだ。

 世間知らずで甘えっ子なのに、どこかミステリアスなかぐや彦と、BL界でいうところの「スパダリ(=スーパーダーリン、容姿条件が全て揃った高スペック男子)」帝とのお話は、かなり妄想が掻き立てられた。結局2人の恋は成就せず、悲恋なのが…(哀)。かぐや彦を自分の物にできず、苦しみ、悩むスパダリ帝が…(萌)。

■『伊勢物語』稀代のプレイボーイが恋の歌を贈る相手も、全員男

『伊勢物語』は、在原業平が主役とされており、多くの女性との恋愛話と、巧みで艶っぽい和歌の応酬が読みどころの古典なのだが、本作では「恋の相手」が本当にもれなく男性となっている。女御や女房、嬬(つま)などの単語も、全て男御、男房、男需(つま)と書かれている徹底ぶりだ。

「美少女」よりも「美少年」にときめき、「美女」より「美青年」に惹かれ、「美魔女」より「美中年」がたまらない、という読者にとっては素晴らしい世界(笑)。最高である。

 どちらのお話も、超訳ではあるものの、基本的に原典通りのエピソードを追っている。(『伊勢物語』は分かりづらい点も多いため、著者の解釈を加えている箇所も多いとか)。

 セリフの口調はイマドキで、文調の「ノリ」もライトであり、敢えてマンガのストーリーを追うような現代っぽさが強く醸し出されている。そのため、「分かりやすさ」と「読みやすさ」は抜群だ。

「数多く出版されてきた古典意訳のひとつ」として、お堅い気持ちで本作を手にした人は、世界観に馴染むまで少し時間がかかるかもしれないが、中学生くらいからでも、問題なく読んで理解し、楽しめる作品になっているのではないだろうか。

 BLという点から興味を持ち、現代の小説のような感覚で古典に親しみを持ってほしい。そういった意図もあり、刊行されている古典セレクション。続刊は2巻『古事記』、3巻『怪談』と予定されているそうだ。

 この先もまた新しい古典の世界を見せてくれるだろう。

文=雨野裾