あなたの買い物を動かす見えない力。「♪やめられない、とまらない…」の続きを歌えるワケは?

ビジネス

更新日:2018/11/26

『いまさら聞けない マーケティングの基本のはなし』(松井 剛/河出書房新社)

 一度も着ていない服、部屋の片隅でほこりをかぶっている健康器具、機能を使いこなせていない高性能家電…。そういった、「なんであんなもの買ってしまったんだろう?」という経験を一度や二度したことのある人は多いだろう。

 人が商品やサービスを買うことを消費行動といい、そのほとんどは、あなたの意思だけでなく、外部からの影響によって決まってくる。だからこそ、企業は人々の消費行動を調査し、また消費を喚起する「マーケティング」に力を入れているのだ。

『いまさら聞けない マーケティングの基本のはなし』(松井 剛/河出書房新社)は、そんなマーケティングの背景にあるさまざまな理論や概念を教えてくれる1冊だ。「理論」などと聞くと難しい内容のように思うかもしれないが、そんなことはない。本書の内容は、大学で「消費者行動論」を教えている著者が授業の合間に話した数々の小話がもとになっているので、非常に読みやすく、しかもわかりやすい。その雰囲気は、「テキ屋のアルバイトをして学んだこと」、「食べたら太るという古典的矛盾を私たちはどう乗り越えてきたのか?」、「お焼香を食べたオスマン・サンコンさんの話」といった見出しからも伝わってくるだろう。

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■マーケティング理論で、あなたの買い物もすべて分析できる?

 本書によれば、人間の消費行動には、「動物的消費」「人間的消費」「文化的消費」などの種類があるという。

 繰り返し同じ情報を与えられることで、パブロフの犬の実験のように条件付けされ、思わず買ってしまうのが「動物的消費」の例だ。

 また、人がパリに旅行するのは、前もって自分のもっているパリのイメージを確認するためで、だからこそ絵ハガキと同じような写真を撮りたがるというのが「人間的消費」の一例である。

 さらに、お金持ちが商品自体の性能ではなく、高額であるという理由で高級外車を買うといったことが「文化的消費」だ。

 企業は、これらさまざまな人間の消費行動を見きわめ、それをくすぐったり刺激したりすることで商品を売っている。

■社会や文化を変えてしまうマーケティングの力とは?

 冒頭で、「消費行動のほとんどは外部からの影響によって決まる」と記したが、そのもっともわかりやすい例が、本書で取り上げられている口臭予防薬の話だろう。

 アメリカでは自分の口臭を気にする人が多いが、きっかけとなったのは、1920年代に、口臭があると結婚できなかったり、社会的に成功できないという口臭予防薬のイメージ広告が大量に出回ったことだという。その結果、口臭予防薬はヒット商品となったが、同時に、それまで大半の人が気にもしていなかった口の臭いを多くのアメリカ人が気に病むようになってしまった。これはまさにマーケティングの勝利であり、人の意識すら変える絶大な影響力の証明である。

 本書を読むことで、マーケティングのしくみを深く理解することができるはずだ。そして、ひとりの消費者としてそのしくみを理解することは、マーケティングに振り回されることなく、「なんであんなもの買ってしまったんだろう?」という失敗経験を減らすことにつながるかもしれない。タイトルのフレーズが頭から離れない秘密も、本書を開けばきっと分かるようになるだろう。

文=奈落一騎/バーネット