定番化する「恐怖マーケティング」…広告離れの消費者にモノを買わせる電通テクニック

ビジネス

2018/12/4

『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(本間立平/大和書房)

「電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ」。冬用タイヤを販売するメーカーが最も気にするのが、その年の降雪量だ。大雪なら広告を打たずとも売れるし、降雪ゼロなら売上もゼロ。そんなタイヤメーカーの無理難題に電通が出した、お客の心に雪を降らせる秘策とは?

『電通さん、タイヤ売りたいので雪降らせてよ。』(本間立平/大和書房)は、広告制作会社「電通テック」に勤める著者が、自身の経験や研究、さらに心理学、行動経済学、脳科学にいたるあらゆる技術を集結させた電通式販売促進テクニックを公開している。

 ときにいまの消費者は「広告離れ」だという。昔はテレビCMで新商品を宣伝し、店頭に並べればなんでも売れた。しかしSNSの普及で買い手が発信する情報が増え、相対的に売り手の発信する情報は信頼性も存在感も薄まってしまったという。

 それでは、もう広告業は立ち行かないのかというと、実は買い手に悟られないところで、売上げアップの販売戦略が行われていた。

 例えば、スーパーやドラッグストアでよくみかける、商品がカゴの中に乱雑に積まれている光景。これは「ジャンブル陳列」と呼ばれる陳列なのだが、ある実験では、栄養ドリンクの価格は変えず、「ジャンブル陳列」にしたところ、売上が4倍になったというデータがある。「雑に扱われているものは安い」という消費者の思い込みを利用した巧妙なトリックだ。確かにディスカウントストアなど、「ジャンブル陳列」のコーナーを常時設置している店舗がある。

 もう一つ、消費者の心理を逆手にとる罠が「飢餓マーケティング」と呼ぶ手法だ。あるアパレルブランドは、あえて少なく商品を仕入れ、売り切れの最後の一着を用いて女性誌などに広告を打つ。すでに売り切れているとも知らず、広告を見てやってきた客は、手に入らなかった悔しさとともに「あのブランドは人気」と刷り込まれ、次は逃すまいと売り場に通い詰めるようになる。ずっとモノを欲しがる飢餓状態にさせるというわけだ。

 さらに感情を煽る手法としては、「恐怖マーケティング」というものがある。掃除機のCMでダニやハウスダストを拡大した映像が流れるのを見たことがあると思う。普段なら気にかけないミクロレベルの不潔を意識させ、掃除機が必要と思わせる手法だ。毎日寝ている布団に大量のダニが蠢く恐怖映像は、潔癖症になってしまいそうな恐ろしさだ。それ以外にも病気や事故、将来の不安を訴える生命保険のCMなど、「恐怖マーケティング」はすでに定番化しているという。

 そういえば、女優の綾瀬はるかさんを起用した冬用タイヤのCMも、「誰もが自分の大事な命と車に乗っています」と、タイヤが家族の命を乗せる重要なものだと主張している。

 本書で公開されている手法は、著者が実際に売り場に赴き、現場からフィードバックを受けた実績のあるものだ。販売業、接客業に携わる人々にとっては、集客アップ、売上アップの秘策がつまった虎の巻となっている。

 気づかぬうちに街に広告があふれる現代。「入会費無料」「基本無料」などの甘い誘い文句に釣られて、高い買い物をしてしまわないように私たち消費者も広告を見る目を鍛える必要がありそうだ。

文=愛咲優詩