偽りの富裕層、公益を忘れた官僚…悪だらけの“カネの亡者”たちを成敗!『特捜投資家』が痛快すぎる

文芸・カルチャー

公開日:2018/12/5

『特捜投資家』(永瀬隼介/ダイヤモンド社)

 公権力が企業と癒着していることなど、全国民が知っている。そして、メディアが過剰に新興企業や実業家をはやしたて、称賛するのも今に始まったことではない。そして、散々持ち上げられていた人間が転落を辿る姿を我々は何度も目にしてきたはずだ。それなのに、どうして新たな不正が起こるのか? 日本中が口先だけで中身は空っぽな自称「イネベイター」に騙されてしまうのか?

 ノンフィクション作家・永瀬隼介氏は『特捜投資家』(ダイヤモンド社)で、忖度感情が蔓延した結果、巨悪が見過ごされてしまう日本社会に鋭いメスを入れる。もはや警察も政治家もあてにならない時代で、経済界の悪を裁く手段は「投資」しかない。ピカレスクロマンとして刺激的であるのと同時に、近代の経済リポートとしても参考にしたい物語である。

 有馬浩介はもともと大手新聞社に勤めていた記者だったが、35歳にしてフリーランスに転向。仕事がなく、貯金を食いつぶしてなんとか暮らしていた。ネタはないかと潜入したセレブ向けパーティーで、有馬は「金融界のイチロー」との異名を持つ投資家、城隆一郎が中年男ともめている光景を目撃する。城の身辺を取材し始めた有馬に、城自身も興味を持つようになった。そして、有馬を自宅に招いた城は意外な仕事を依頼するのだった。

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 有馬は城から、EV(電気自動車)の新技術で注目されているベンチャー企業、「ミラクルモーターズ」の調査を引き受ける。城は投資先としてミラクルモーターズが安全かどうか、報告を求めてきた。しかし、ミラクルモーターズの経歴は輝かしく、非の打ち所がない。代表・黒崎と面会した有馬は相手の人柄に強く惹かれ、「問題なし」との報告書を提出する。ところが―

「間抜け」

 そう、ミラクルモーターズはマスコミへの賄賂で提灯記事を書かせ、詐欺同然の誇大広告で資金を集めていた悪徳企業なのだった。城は有馬の取材力と眼力をテストしていたのだ。ジャーナリストとしてのプライドを傷つけられた有馬は、取材の続行を城に懇願する。それにしても、悪徳企業の実態を知りたがる城の目的は何なのか?

「政治家も、官僚も、財界人も倫理のブレーキがぶっ壊れ、捜査機関はとっくに開店休業中。つまり、おれたち強欲な投資家にとって最大のチャンスが到来だ。汚いカネの海を浚って稼ぎ放題。ついでに悪事が正せるんだから。警察捜査二課と地検特捜部の仕事を肩代わりしてやってるようなもんだな」

 まさに、特捜投資家。城はミラクルモーターズを、投資によって叩き壊そうと企んでいたのだった。しかし、どうやって? 詳しい方法は本作で確かめてほしい。

 それにしても、本作で思い知るのは金の力である。これまで数々の犯罪事件を取材してきた作者だけに、本作でも闇世界のディテールは秀逸だ。

 ミラクルモーターズをはじめとして、本作には不正に手を染めた組織、個人が次から次に登場する。しかし、彼らが見逃されているのはひとえに金を持っているからだ。そして、これは決してフィクションではない。金や立場を利用して、堂々と不正行為を繰り返しながらもまったく咎められないまま暮らしている人間は、世界中にごまんといる。すでに一般人たちの怒りは頂点に達しているが、権力を恐れたマスコミは今日も、真の犯罪者たちが笑顔で闊歩している様子を報道している。

『特捜投資家』は、「目には目を、金には金を」の精神で、見逃されてきた悪人たちを成敗するまでのプロセスが痛快なのだ。とはいえ、「金がすべて」という価値観に生きている以上、城もまたいつ闇に堕ちてもおかしくない男である。本当に金より大切なものはこの世に存在しないのだろうか? 本作のクライマックスは本質的なテーマにまで迫っており、現代人の生き方を問い直してくる。

文=石塚就一