売れ残りの猫とおじさまの家族愛に涙…優しい世界観が心に染みる『おじさまと猫』

マンガ

更新日:2019/2/25

『おじさまと猫』(桜井 海/スクウェア・エニックス)

 人間同士だけでなく、動物と人間も心から愛し合える家族になれる。そう感じさせてくれる『おじさまと猫』(桜井 海/スクウェア・エニックス)は、優しさに満ちた猫漫画だ。

 本作はもともと、主に猫好きの方から熱い支持を得ていたTwitter発の猫漫画であったが、その優しい世界観が幅広い読者の心を掴み、2018年には「次にくるマンガ大賞」のWebマンガ部門で2位を獲得するほどの人気作品となった。

 1巻には、ペットショップの売れ残り猫・ふくまるとおじさまとの出会いが丁寧に描かれており、ふたりの愛情溢れる日々を楽しむことができたが、最新巻である2巻では、おじさまの猫愛がさらに加速している。猫型のスマートフォンケースを購入しようとしたり、ふくまるに似た雑貨に目がいくようになったりしてしまったおじさまの姿は、読者の笑顔を誘う。

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 さらに、最新巻でおじさまの辛い過去が少しずつ明かされ始め、ふたりの関係にも変化が見られるようになった。これまではおじさまに守られることの多かったふくまるが、なんと最新巻ではおじさまを守ろうとし始める。ペットショップの狭いショーケースの中が全てだったふくまるは無条件の愛を与えてくれる人と出会えたことにより、強くなれたのだ。

 対して、おじさまのほうは心から信頼できる家族を得たからこそ、弱さを表わせるようになり、心の中に封じ込めていた過去と向き合えるようになった。ふたりにとってお互いは、よきパートナーであり、家族であり、手放したくない宝物なのだ。

■ふくまるが教えてくれる「大切な人の悲しみを和らげる方法」

 私たちは大切な人が悲しんでいたり、泣きながら笑っていたりすると、どんな言葉をかけていいのか悩みすぎて、結局なにもできないことがある。しかし、そんなとき本当に大切なのは、気の利いた言葉や上手い慰めではなく、ただひたすら傍に寄り添うことなのかもしれない。

 本作の中でふくまるはおじさまが悲しんでいると、必ず傍に寄り添う。すると、おじさまはふくまるの温もりで心が温かくなり、元気になる。

 私たちは言葉が通じ合うため、時として言葉に頼りすぎてしまうことがある。そのため、ふくまるが行っている“大切な人の守り方”は私たちに、忘れかけている何かを思い出させてくれるような気がしてならない。

 幸せとは、家族とは何なのかを考えさせてくれる本作は大切な人と一緒に読みたい1冊でもある。信頼関係を強めていったふたりがどんな笑顔を咲かせ続けていくのか、これからも見守っていきたい。

文=古川諭香