悪気はないのに、真面目に頑張っているのに…「大人の発達障害」どうすれば生きづらさを改善できる?

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公開日:2018/12/6

『大人の発達障害 生きづらさへの理解と対処』(市橋秀夫:監修/講談社)

「発達障害」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。言葉は知っていても、曖昧な知識しかないので、厚生労働省のウェブサイトで調べてみたところ、「生まれつきの特性で、病気ではない」。自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)など、いくつかのタイプに分けられるが、生まれつき脳の一部の機能に障害があるというのが共通点。個人差が非常に大きい障害とのことだ。

『大人の発達障害 生きづらさへの理解と対処』(市橋秀夫:監修/講談社)では、発達障害がもたらす困難と問題は多岐にわたると指摘。対人関係がうまくいかない、家庭生活の困難、会社や学校でのトラブルなど、様々な困難が重なり、うつ病などの精神疾患を合併してしまうこともあるそうだ。さらに、成長とともに社会生活の範囲が広がるため、生きづらさは大人になるほど深刻になる。

■少数派の脳を持つ人たち

 発達障害の特徴として、コミュニケーションがうまくいかないために、実際よりも低い評価を受けてしまったり、悪気はないのに相手を不快な思いにさせて怒らせてしまったりすることもあるが、決して能力が低いわけではない。精神科医として豊富な知識・経験を持ち、本書の監修を行った市橋秀夫氏によれば、発達障害の人は「現代では生きづらい、少数派の脳をもった人たち」。人間が進化する過程で失われた脳のシステムを持つ人たちだ。

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 例えば、自閉スペクトラム症の人は、視覚的な記憶力が優れているが、これは狩猟採集時代には大いに役立ち、このような能力を持つ人が必要だった。農業や漁業、手工業にも向く脳だが、産業構造が変わり、仕事でコミュニケーション力を求められることが多くなったため、生きづらくなってしまったというわけだ。

■生きづらさを改善するためにできること

 発達障害は脳の機能の問題であり、治療すれば治るというものでもない。そのため、少しでも生きづらさを改善するためには、周囲との連携が不可欠だ。もちろん、本人にできることもある。例えば、「できないこと」と「できそうなこと」を見分ける。他の人が当たり前のようにできることでも、発達障害のタイプによってはできないこともある。一方で、トレーニングをすればできるようになることも。個人差の大きな障害であるだけに、その見極めが大切だ。本人が「できないことがある」ことを受け入れ、周囲がその見極めに協力できれば、生きづらさは改善できるだろう。

 職場に発達障害の人がいる場合は、「具体的に」伝えることが不可欠。発達障害の特性として、曖昧な表現から推測することが苦手で、言葉の通りに受け取るので、具体的に説明をすれば伝わるはずだ。視覚化するのも有効な方法なので、口頭だけではなくメモや文書にすると、さらに伝わりやすくなるかもしれない。脳の機能が違うと、色々なことの「やり方」も違う。自分が当たり前だと思っていることも、機能の異なる脳を持つ人にとっては当たり前ではないかもしれない。自分の常識から大きく外れているとストレスを感じてしまうこともあるが、それは相手も同じなのだ。

 悪気はないのに相手を怒らせてしまい、真面目に頑張っているのに不真面目だと思われ、周囲の人が当たり前のようにしていることが自分にはできず、理由が分からないから解決方法も分からない。こんな風に日々を過ごすのは、あまりにもつらい。しかし現実には、このような、またはこれ以上の生きづらさを感じている人がいる。それを念頭に置いて人と接するように心がけるだけでも、発達障害の人の生きづらさは少しずつ改善されるかもしれない。本書には、そのために必要な情報が豊富に盛り込まれている。いまを生きるすべての方にオススメしたい一冊だ。

文=松澤友子