今月のプラチナ本 2012年5月号『楽園のカンヴァス』 原田マハ

今月のプラチナ本

更新日:2012/4/6

楽園のカンヴァス

ハード : 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:原田マハ 価格:1,728円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『楽園のカンヴァス』

●あらすじ●

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンに一通の手紙が届く。アンリ・ルソーの名作を所有している、それを調査してほしいとの依頼だった。スイスの大邸宅に向かったティムは、そこでありえない絵を目にする。MoMAが所蔵するアンリ・ルソーの大作「夢」とほぼ同じ構図、同じタッチの絵。持ち主の大富豪は、真贋を正しく判断した者にこの作品の取り扱い権利を譲渡すると宣言する。ヒントとなる古書を渡されたティムと、鑑定のライバル・早川織絵。ふたりの研究者に与えられたリミットは7日間。この絵は贋作か、それとも真作か? 倉敷、ニューヨーク、バーゼル、パリ。世界の美術界を巻き込んだ、傑作長編アートミステリー。

はらだ・まは●1962年東京都生まれ。中学・高校時代を岡山市で過ごす。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。マリムラ美術館、伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室にそれぞれ勤める。森ビル在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され勤務。その後、フリーのキュレーター、カルチャーライターに。2005年、「カフーを待ちわびて」で第一回日本ラブストーリー大賞を受賞し、デビュー。その他著書に『一分間だけ』『さいはての彼女』『でーれーガールズ』『永遠をさがしに』などがある。

新潮社 1680円
写真=首藤幹夫 

編集部寸評

地味で真面目な男の片恋、ときめきます

ロマンチックな愛の物語だった。ルソーのものらしき大作絵画の真贋をはかるのは、男と女。判定作業のためにそれぞれ世界を飛び回るのかと思いきや、ある屋敷の一室に、交互にこもるのみ。そこには一冊の本が置いてあり、ルソー本人をめぐる愛の物語が書かれている。芸術に対して、そしてある女性に対して一途なルソー。愚かしいほどにロマンチックな彼の情熱こそが、真贋判定の謎とき以上に私を惹きつけ、ページをめくる手を止めさせない。ルソーを通して、絵というものが持つ魔術的な魅力、そして男にとってのミューズ(女神)の存在の大きさが、読み手に伝わってくるのだ。そんなルソーの情熱に浮かされるのは、本書の読者だけではない。劇中で真贋判定に挑む男女も、絵に対する思い、人に対する思いをかき立てられる。絵画ミステリーである以上に、私にとっては“地味で真面目な男の片恋が、二重に描かれた物語”。ひさびさに、ときめきました。

関口靖彦本誌編集長。ひさしぶりに実家に帰り、子どものころの愛読書『世界の怪獣』を発掘。「写真で見る世界シリーズ」と副題にありますが、写真は1点もなし

ストーリーに絵画に陶酔できる本格アートミステリー

中野京子さんの数々の著作で、西洋絵画に秘められたさまざまなエピソードを知り、その奥深さに感嘆していたこともあって、本書はむちゃくちゃおもしろかった。原田マハさんの絵画ミステリーと聞いて初めは意外な気がしたが、経歴をみたらキュレーター経験がバリバリ豊富な方なのですね。
 本書は、ミステリーとしての謎の設定や構成のすばらしさもさることながら、キャラクターの絵画に対する情熱の深さに圧倒された。恋愛的な要素もさまざまに織り込まれ、物語としても濃厚。語り口が軽やかで、ストーリーテリングも抜群なので、一気に読み終えてしまって、それがもったいないほどだった。ルソーに関することを自ら調べたうえで、丁寧に再読したいと思った。愛せる存在を持つことの幸せを実感できる一冊。美術に関心のない人でも十分に楽しめるし、読み終わったあとは美術館に行きたくなることが確実の大傑作。絵の見方が変わります。

稲子美砂京都の書店取材が、仕事ということを忘れそうになるくらい楽しかった。又吉さん、綿矢さん、書店・ブックカフェのみなさま、ありがとうございました

本格ミステリーばりの謎解き!

原田マハさんはラブストーリー作家というイメージだったが、本作品は殺人事件のない本格ミステリーともいえる傑作だ。モチーフにした美術の分野はもともとのご専門のようでその薀蓄を存分に楽しむことができるし(私はアンリ・ルソーとピカソがとても好き♥)、「中国地方の美術館の一介の監視員」だった織絵の過去の謎が急浮上するという冒頭からいきなりの展開や、彼女の過去がなぜ封印されたのかを解く鍵が「古書に書かれた物語」を読むことという趣向など、本好きにはたまらない。伝説のコレクターの登場やキュレーターの駆け引きなど、物語の底流を流れる美術界の怪しい気配も素敵だ。そして終盤の大団円の真贋鑑定対決で、謎が明らかになるわけだが、その対決のシーンは本格ミステリーにおける解決編の快楽を思わせた。がちがちのミステリーでない分、間口は広い。多くの人が時間を忘れて没入間違いなしの超一級エンタメ小説だ。

岸本亜紀この本は伊藤まさこさんに“面白いですよ”と教えていただきました。『幽』の創刊の翌年に生まれた長男は4月で小学生。春は別れと出会いがたくさん

今年の私的ベスト作品に確定!

めちゃめちゃ面白かったー!!「傑作というものは、すべてが相当な醜さを持って生まれてくる」「この作品には、情熱がある。画家の情熱のすべてが。……それだけです」作中のこの言葉に心を鷲摑みにされた。若き日のピカソとまだ無名のルソー、二人の天才画家の情熱が、時を超えて若き研究者二人へと伝わり、さらに、読み手である私の胸をもこんなに熱くすることに感動。芸術、文学を愛する人はもちろん、絵画に詳しくない方にも自信を持ってオススメしたい。

服部美穂同時期に読んだ西田征史さんの小説『小野寺の弟・小野寺の姉』も面白かった。また違う魅力。酢味噌サイコー!

アートの世界を身近に

自身のキュレーター経験が遺憾なく発揮された本作は、手に汗握る展開とともに美術館の力関係や展覧会の仕組みがよくわかる。普段アート作品に大した興味を持っていない私でも、奥深い近代美術への知的好奇心が高まってゆく。ピカソとルソーという時代やそれを取り巻く人々を知りたい。作中の絵画ひとつひとつに直にこの目で触れてみたい。自然の『奇跡』を愛し、アートを愛したルソーや織絵たちの想いを通して、小説というアートの愉しみさえも教わった気がする。

似田貝大介 3月11日に祖父や現地の作家たちと岩手・宮城の被災地を巡った。様々な地域の現状を記憶に留めておきたい

美術館に行きたくなる

「美術品との出会いは偶然と慧眼に支配されている」。早川織絵のルソーを敬愛する情熱は、彼女の世界でもあり人生でもある。歴史に刻まれる作品と、それを生み出した作者の思い。それらが世の中に伝え続けられてきたという偶然。限定された場所でしか出会えない奇跡は、そこに出向いた者にしか味わえない至福の時間を与えてくれる。情報過多、ネット社会の時代だからこそ、今しか出会えないものにふれあう。それはなんと贅沢なことか。そんな幸せを、本書は教えてくれた。

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絵画好き必読のミステリー

絵画の基礎知識がまったくない私がこれだけ惹きこまれたのだから、絵画が好きな人にとっては、たまらない作品だと思う。私でも知っているほどの有名な画家、アンリ・ルソーの絵画をめぐるミステリー。彼の作品から放たれる甘くて鮮烈な香りが、本書にも充満している。巨匠の作品と対峙する若き研究者二人が受ける衝撃、そして感動。読みながら二人に共感してドキドキした。織絵のように絵画を楽しめたら、時間がいくらあっても足りないだろうなぁ。

鎌野静華鼻がぐずぐず、のどが痛い。とうとう花粉症デビューか、と思ったら風邪でした。最近治りが遅い……歳っすね

たくさんの恋と情熱

この物語に、また作中作に登場する多くの人によって語られる、恋焦がれる存在への情熱的な思いとその描写に引き込まれた。私は絵画の知識はほとんどないけれど、彼らが語る絵や画家の素晴らしさが熱量をもって迫ってくる。そのものについて考えずにはいられない、それは恋なのだと思う。史実をもとにしたピカソとルソーの謎の物語に、さまざまな次元での恋物語が詰まっている。何かに恋焦がれるということの幸せをまっすぐに見詰められる情熱的な物語だった。

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和製『ダ・ヴィンチ・コード』

恥ずかしながら私は全くと言っていいほど美術に造詣がない。田舎に生まれ育った私は上京して初めての夏に、当時好きだった女の子に連れられて国立新美術館に行ったが、思えばあれが最初で最後の美術館体験だった。そんな私だから本書の「アートミステリー」という触れ込みには全く食指が動かない。しかし、気後れしながら本書を読み始めると、あまりに面白くて美術用語を調べ出す自分がいたのです(驚)。知的バトルを描いた小説ってなんでこんなに面白いのでしょう。

川戸崇央マスクをすればメガネが曇るし、メガネを外せば目が痒い上にものが見えない。どうしろって言うんだ!

耽美な世界感にどっぷり

この高揚感! 母によく美術館に連れ回されたためか(今作登場の大原美術館にも何度も)“名画をめぐる謎”の耽美な世界に昔から惹かれてやまない。『ギャラリーフェイク』にハマり『ダ・ヴィンチ・コード』を幾度と読みまくり、そして今作。ルソー幻の絵画、それにピカソが関係? 真偽のため召集されたワケあり学芸員? 絵画美術の華麗な世界感にたっぷり浸らせてくれながら“古書”によってその謎が剥がされていく。画家の素顔にも触れられ大興奮。続編をぜひ!!

村井有紀子京都特集&次号「男と本」特集を同時に進行。度々フラつくも取材が幸せすぎて元気復活。次号、女性読者必見!

潤いをくれる美しき謎解き

一枚の絵には芳醇なドラマがあると語った大学の講師の表情をよく覚えている。少し熱のこもった目をしていた。本書のキーパーソンであるルソーの時代の画家たちの人生についても彼から学んだ。自分の身も名声も財産も捨てて、新しい美を探究し続けた画家たち。その一作の真贋をめぐる謎解き対決が、登場人物たちの乾いた人生に潤いを与えていくストーリーは読んでいて心地よい。情熱はすぐ忘れそうになるから、彼らの絵に惹かれるのかもしれないなあ、と思った。

亀田早希特集の取材で某ホテルに宿泊。後で「あのホテル、出るよ」と教えられました。泊まる前に言ってください……

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