しりあがり寿、和田ラヂヲ、上野顕太郎、カネコアツシらが手塚治虫をトリビュートする『テヅコミ』

マンガ・アニメ

2018/12/12

『テヅコミ』(マイクロマガジン社)

 しりあがり寿、和田ラヂヲ、上野顕太郎、カネコアツシ、史群アル仙、九部玖凛…。

 世代も作風も異なる面々だが、こんな錚々たるマンガ家たちが一堂に会し、刊行が始まったシリーズがある。それが、手塚治虫の生誕90周年を記念した書籍『テヅコミ』(マイクロマガジン社)だ。

『テヅコミ』では、手塚治虫を敬愛するマンガ家たちが、おなじみの手塚作品にアレンジを加えたオリジナルマンガを発表。創刊号となるVOL.1は10月5日に発売。月刊ペースで全18号での刊行を予定しており、12月5日にはVOL.3が発売された。

「影響を受けていないマンガ家はいない」と言われる手塚治虫だけに、そのトリビュート作品を描く面々も上記のように非常に多彩。アレンジ具合にも作者の色が表れている。第1号から、そのいくつかをご紹介しよう。

 たとえばしりあがり寿が描くマンガは「懊悩! マモルくん」。原作の『マグマ大使』は、正義の味方・マグマ大使と、地球侵略を狙う宇宙の帝王・ゴアとの戦いを、地球の少年・まもるくんの立場から描くマンガなのだが、しりあがり寿版はキャラは同じでもストーリーはまったく別モノに。

しりあがり寿「懊悩! マモルくん」

 マモル少年がマグマ大使の妻・モルに恋心を抱き(というかレオタード姿にムラムラし)、マグマ大使は「モルをこの手から奪うやつがいたら 火の海に沈め 素粒子にまで粉々にしてやる!!」と町を破壊するというメチャクチャなマンガになっていた。なお、第1話の扉絵のキャッチコピーが、原作の第1話と同じものだったり、第2話には「これは手塚治虫というより○星大二郎トリビュートなんじゃ…」という場面もあったりと、細かな小ネタがちりばめられているのも必見だ。

史群アル仙「グルグルギューン」

 ちなみに和田ラヂヲは「和田ラヂヲの火の鳥」(原作:『火の鳥』)で期待通りの脱力っぷりを、上野顕太郎は「治虫の国のアリス」で期待通りの大パロディっぷりを披露。平成生まれながら、手塚治虫をはじめとした昭和のマンガ色が強い作風で話題を呼んでいた史群アル仙は、『ブラック・ジャック』の名作回「笑い上戸」(少年期のブラック・ジャックと同級生“ゲラ”の友情を描いた話)に自ら入り込むマンガ「グルグルギューン」を描いている。

武礼堂「新約・リボンの騎士」

九部玖凛「亜夜子」

 一方で武礼堂(村正みかど・宮本ろば・はまむらとしきり)の「新約・リボンの騎士」(原作:『リボンの騎士』)や、九部玖凛の「亜夜子」(原作:『奇子』) などでは、手塚キャラたちが現代的にエロティックな作画で登場。いずれも原作の骨子を引き継いだ話となっているが、男の心と女の心を持つ王女が主人公の『リボンの騎士』の物語は、「時代が手塚治虫に追いついた」と思えるほど“今風”のもの。狂気に蝕まれた『奇子』の世界は、原作を知らない人には「え、手塚治虫ってこんな話も描いていたの…?」と衝撃を与えるだろう。

 なお『テヅコミ』は各号400ページ超の大ボリューム。参加した作家のインタビューをはじめ、読み物も充実しており、堀江貴文が手塚作品を語る連載もある。『ブラック・ジャック』について「僕は高額な治療費を吹っかけることが悪だなんて全然思わなくて、むしろ好感が持てる」と話しつつ、「たとえば『ワンピース』みたいな世界観って、僕にとってはものすごく気持ち悪いんだよ」と流れ弾も飛ばしており、ホリエモン節が全開だ。

 なお各号ごとにゲスト作家もおり、12月5日発売のVOL.3では野上武志「ねこのち」(原作:猫の血)が掲載。ここまで紹介してきた「懊悩!マモルくん」「和田ラヂヲの火の鳥」「治虫の国のアリス」「グルグルギューン」「新約・リボンの騎士」が引き続き連載で収録されるほか、手塚治虫の名作の一部も毎号掲載されており、今回は『火の鳥』未来編、『ネオ・ファウスト』、『猫の血』などが収録されている。この『テヅコミ』シリーズは、手塚治虫の世界にほとんど触れたことがない人にも、よい入門編となるはずだ。

文=古澤誠一郎

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