BLの醍醐味“愛”もしっかり描かれる!「異世界トリップBL」注目の2作品とは?

文芸・カルチャー

公開日:2018/12/15

 近年、Web発小説の書籍化の勢いが止まらない。現代ものが主流のBLにも、いわゆる「なろう系」と呼ばれる異世界ファンタジー作品の波がきており、各社から相次いで刊行されている。今回、老舗BLレーベルであるルビー文庫編集部からもWeb発の人気小説2作品が2018年12月に発売される。ジャンルは「なろう系」らしい「異世界トリップ」と「異世界転生」ものになるが、丁寧な心理描写や濃密な人間関係など、BLらしい読み応えがある。

『蘇獣師の召喚』(KADOKAWA)

『蘇獣師の召喚』(マキ:著、あまちかひろむ:イラスト/KADOKAWA)

「蘇獣(そじゅう)」という生き物が、塩や鉱石などの重要な資源を生み出す不思議な世界に、術者・ヒクイドリによって召喚された主人公・明野朱鷺雄(あけのときお)。この世界では、名前の音数が多いほど力の強い蘇獣と契約を結ぶことができるため、名前に6つの音を持つ朱鷺雄は、蘇獣たちにとって魅力的な存在であった。だが朱鷺雄と同じく名前に6つの音を持つ青年が、各地の強力な蘇獣と契約者を次々と屠り、世界を脅かし始めたことで朱鷺雄は対決を余儀なくされ……?

 この作品は、しっかりと世界観が構築されており、主人公と術師・ヒクイドリとのじれったい恋模様だけで終わらせることなく、物語の肝となる蘇獣と人間の契約の秘密や両者の関係性が魅力的に描かれており、一気に物語に引き込まれてしまう。特に、主人公が異世界の核心に迫っていくまでの過程は読み応えがあり、ファンタジー作品としてもおすすめだ。また、登場人物たちが非常に魅力的で、主人公と対決する敵・アルバトロスの歪な正義や、アルバトロスと契約する最強の蘇獣の支配欲、そして主人公と契約する蘇獣の献身的な描写など、身悶えする要素も満載だ。

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『後宮を飛び出したとある側室の話』(KADOKAWA)

『後宮を飛び出したとある側室の話』(はなのみやこ:著、香坂あきほ:イラスト/KADOKAWA)

 もう一作品である『後宮を飛び出したとある側室の話』(KADOKAWA)は、現代日本からの転生者が主人公。後宮で何一つ不自由ない生活を送る側室へ転生した主人公は、大国の王に寵愛されるが、王が新たな側室を迎えたことを機に出奔する。逃亡先の隣国で、質素ではあるものの充実した日々を送っていたが、その国の王太子と最悪の出会いを果たす。だがいつしか聡明さを買われ、「国を変える手伝いをして欲しい」と王太子に請われ…?

 主人公は転生前の記憶を持つために、与えられるだけの境遇や側室という身分に違和感を覚え、母親が残した「自由に、誇りある人生」という言葉を胸に後宮を出奔する。逃亡先での生活は後宮での生活と比べるまでもなく質素だが、主人公が人生と運命を自分自身の手で掴み取ろうとする姿には、きっと共感を覚えるはずだ。三角関係をテーマとし、魅力的な二人の男性のはざまにありながらも、主人公の選択が地に足のついた納得感があるのは、濃やかな描写で綴られるキャラクターたちの切ない心情が、しっかりと描かれているからだろう。

 両作品ともBLの醍醐味である「愛」がしっかりと描かれている一方で、本格的なファンタジー小説として読み応えがあり、新たなBLの潮流を感じる。