死神も座敷童もとりこにする……! 優しさあふれるおじいさんのほのぼの日常に癒やされる

マンガ

公開日:2018/12/23

『おじいさん家のものの怪』(暮/フロンティアワークス)

 大人になってからというもの、誰かの優しさに触れると、冗談ではなく泣きそうになることがある。

 それはたぶん、誰かの親切は決して当たり前ではないことや、優しさの裏側には、悲しみや辛い経験が隠れていることに気づくようになったからだと思う。誰かの痛みを分かち合おうとする心の温かさほど尊いものはないと、しみじみと感じるのだ。

『おじいさん家のものの怪』(暮/フロンティアワークス)は、様々な過去を背負った者たちの「優しさ」が描かれているマンガである。

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 物語は、新人死神のウロが、記念すべき初仕事として、76歳のおじいさん・崎川 善(ぜん)の魂を回収しようと試みるところからはじまる。

 死神は、冥界より来る死の使者。人の魂を回収することが彼らのつとめ。彼らは、その手に持つ鎌で、冷徹に魂を刈るのだ。死神にとって人は魂の器にすぎないので、人に何の感情も抱かず心を動かされることもない。……はずだったのだが、仕事当日、なぜかありえないレベルで雑霊に取り憑かれている善に鎌を向けると、

「おや?なんだいブッソーな 駄目だよ そんなもの人に向けちゃあ」

 と、諭されてしまうのだ。自分の姿は人には絶対に見えないはず…!! と、取り乱したウロは、「どちらさま?僕に何かご用?」と聞かれると「しっ死神です」と答えてしまう。おまけに、「もしかして僕のお迎えに来たの?おつとめご苦労様です」と労わられ、調子を崩してしまうのだ。

 しかも、ついていった古い家には、“ケセランパサラン”や“すねこすり”などの妖怪の他、強力な守り神の座敷童・ふくちゃんが同居していた。

 おじいさんが大切な彼らは、全力でウロを追い払おうとする。ウロも、おじいさんに道で転んだケガの手当てをされ、仕事の下積み時代の苦労をねぎらわれ、翌日には朝食まで振る舞われ、どんどん仕事がしづらくなっていくのだが……!?

 本書で印象的だったのは、やはり、なんだかんだ死神のウロが優しいことである。筆者は死神に恐ろしいイメージしか持っていなかった。だが、ウロは、座敷童のふくちゃんが人間のフリをしておじいさんの世話を焼いている理由を聞き、彼女が大切に育てている植物の花が咲くところをおじいさんも見たいだろうからと、中々鎌を下ろすことをしなかった。それどころか、魂を刈る前に、庭の草を刈る手伝いまでしており、思わず笑ってしまった。

 のんびりマイペースで優しいおじいさん。奥さんを亡くし、一人ぼっちになったおじいさんを寂しくさせないように、いつもおじいさんにひっついている座敷童のふくちゃん。そんな二人を絶妙な距離で見守る死神のウロ。

 それぞれ事情を抱えた3人の暮らしは、少々切ないが、他者への気づかいや優しさがあふれていて、心がとても癒された。

 だが、ウロの仕事は魂を回収する死神である。彼が今後どんな選択をするのかは非常に気になるところだ。

 ほのぼのとした描写が印象的な、気持ちが穏やかになる優しい作品だ。ぜひ読んでみてほしい。

文=さゆ