オレ様な態度にはどう向き合う? 病的な自己愛を持つナルシシストとの付き合い方

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公開日:2018/12/20

『あなたを困らせるナルシシストとのつき合い方: 病的な自己愛者を身近にもつ人のために』(ウェンディ・ビヘイリー:著、伊藤絵美:監修、吉村由未:監修/誠信書房)

 近年は、恋人や家族から、自己中心的な感情をDVやモラハラといった形でぶつけられ、心の調子を崩してしまう方が多くなってきている。現に、警察庁が発表した平成29年度の「配偶者からの暴力相談等の相談件数」は、前年よりも1602件(23.5%)増加した8421件だった。

 こんな風に、最も身近な相手に思いやりのない態度を取られると、人は立ち向かったり回避したりすることに疲れてしまうものだ。しかし『あなたを困らせるナルシシストとのつき合い方: 病的な自己愛者を身近にもつ人のために』(ウェンディ・ビヘイリー:著、伊藤絵美:監修、吉村由未:監修/誠信書房)を手に取れば、そんな悩みを解決できるかもしれない。

“ナルシシスト”と聞くと、自分の見た目が大好きな人を思い浮かべる方が多いだろうが、本書では思いやりや共感性をまったく持たず、自分の意志や気持ちのみを押し通そうとする、「不健全な自己愛者」のことを“ナルシシスト”と呼んでいる。

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 ナルシシストに関わっている人は、自分の思考回路を変えることで相手とよい関係を保っていこうと考えてしまいやすい。しかし、実はナルシシスト自身の言動に変化が起きないと、問題を根本的に解決することは難しい。そのため、本書は「スキーマ療法」と「対人神経生物学」という2つの視点を用いて、ナルシシストを深く理解しようと提唱している。

 彼らの脆弱さを見つけ、「相手を愛し、大切にする能力」を引きだすこと。それが問題解決への一番の近道となるのだ。そこで本稿では「スキーマ療法」にスポットを当て、ナルシシストとの関係改善法をご紹介していきたい。

■そもそも「スキーマ」ってなに?

「スキーマ」とは、その人の中に幼少期に形成され、大人になってからも繰り返される自己破滅的な人生パターンのことだ。スキーマは気質(生まれついての性格的傾向)によってどう形成されるかが変わってくるが、その人にとっては揺るぎない「真実」である。誤った認識のまま自分の中に形成されてしまっても、当人は間違っていることに気づけない。

 現にナルシシストは幼少期から思春期にかけて体験した苦痛のせいで、基本的な欲求が適切に満たされず、健全で安定した発達が損なわれ、「早期不適応スキーマ」が無自覚のうちに形成されることも少なくない。ナルシシストにありがちなスキーマは、本書内で詳しく特徴が解説されているので、身近な人に照らし合わせながらチェックしてみよう。

 また、問題を解決するには、ナルシシストがなぜそのスキーマを持ってしまったのかを考えることも必要だ。例えば、両親に支配されたり操作されたりして育った子どもは「不信スキーマ」や「服従スキーマ」が形成され、自分を守るためにナルシシストとなった場合もある。

 こんな風に、自ら望んでナルシシストとなったわけではない人も多く存在しているからこそ、良好な関係を築くためには彼らが感じてきた苦しみや孤独、空虚感にも目を向けていくことが大切なのだ。

■自分のスキーマが「おとし穴」になってない?

 恋人や家族のナルシシストな言動によって困っている人は、ナルシシストの身勝手な振る舞いを無意識のうちに許してしまっている場合がある。こうした「おとし穴」にハマらないためには、自分自身が持っている「早期不適応スキーマ」をチェックしてみよう。

 スキーマはクラスター(群)となって出現する。ナルシシストに関わる人に最も多いのは「不信スキーマ・服従スキーマ群」、「欠陥スキーマ・厳密根基準スキーマ群」、「見捨てられスキーマ・情緒的剥奪スキーマ・自己犠牲スキーマ群」の3つだといわれている。

 これらのスキーマを持っている方はナルシシストが感じの悪い態度を取ったときに「私がなんとかしなければいけない…」と無意識のうちに思ってしまう可能性が高く、彼らの言動に振り回されやすいので注意が必要。

 ナルシシストの言動を変えていくには相手のスキーマだけでなく、自分がどんなスキーマを持っているのか知る必要がある。自分の心の声に耳を澄ませ、本当はどういう言動を取っていきたいのかを見つめ直してみよう。

 ナルシシストと良好なコミュニケーションを取るには自分が囚われているものを知り、相手を異なる視点で見つめていける強さを持っていかねばならない。ナルシシストは“最もありのままの自分を愛せない人たち”ともいえる。飾り立てなくても「無条件の愛情」が貰えるのだということを伝え、対等に向き合える関係を築いていこう。

文=古川諭香