米米CLUB、チェッカーズ…80年代のイントロはなぜ人を熱くさせるのか

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公開日:2018/12/30

『イントロの法則80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(スージー鈴木/文藝春秋)

ノスタルジーに陥らず、マニアックに溺れず、沢田研二から、大滝詠一まで―日本音楽史上最強時代の40のイントロを今さらながらに真正面から受け止め、その「最強性」の高さ・広さ・奥行きを、しっかりと測定しながら、順不同でお届けする。そういう一冊です。

 前書きで著者、スージー鈴木が述べている言葉がすべてだ。『イントロの法則80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)は80年代、日本のポップスや歌謡曲がもっとも盛り上がっていた時代の「イントロ音楽論」である。80年代を「最強」とする著者の主張には異論もあるだろう。しかし、本書を読むとあえて著者が「最強」と形容した意味が伝わってくる。当時を知る人におすすめな本であるのはもちろんだが、若い読者が上の世代の音楽を知るきっかけにもしてほしい。

 新旧問わず大量の音楽を吸収し、自らがプレイヤーでもある著者のイントロ解説は、ときに専門的な理論が並ぶ。コード進行や引用元についての文章はコアな音楽ファンも楽しませるだろう。しかし、著者自身が宣言しているように「マニアックに溺れ」ないのが本書の美徳である。誰でもわかりやすい表現で、80年代のヒット曲の構造が綴られていくため、とにかく本書は読みやすい。そして、単純に面白い。

 たとえば、「うさんくさい」「変」というキーワード。なんだか悪口のようだが、イントロについて語るのであれば、これらは称賛に変わる。沢田研二「TOKIO」のイントロは「うさんくさい」からこそ、大衆の耳に残ったのだ。チェッカーズ「ギザギザハートの子守唄」のイントロは真面目なのかギャグなのかわからないほど「変」だったからインパクトを宿したのだ。

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 一方、シンセサイザーや打ち込みの台頭も80年代の特徴である。それまでは無機質な響きが強調されてきたデジタル楽器が、80年代では人間的な質感へと変わっていく。著者はこうした傾向を象徴する人物として大村雅朗の名を挙げる。彼の名にピンとこない若者も、渡辺美里「My Revolution」、大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」の編曲を手がけた人物と聞けば、途端にリスペクトを抱くだろう。この2曲は80年代を代表する名曲、名イントロとして本書でも絶賛されている。これらのような、あたたかみのあるデジタル音は、70年代までのヒット曲からは聴こえてこない。紛れもない80年代の印である。

 当時を振り返り、あるいは想像しながらイントロを聴くと、あっという間に時代の空気が伝わってくる。大滝詠一は81年に大ヒットアルバム『A LONG VACATION』をリリースした。はっぴいえんど解散後、決して商業的には成功してこなかった大滝がようやく世間に認められたマスターピースである。1曲目で「君は天然色」イントロが聴こえてくる瞬間の絶対感といったら! このイントロによって「A LONG VACATION」は80年代を代表するアルバムになったのだ。

 著者も米米CLUB「浪漫飛行」を語りながら80年代の風景を振り返っていく。シングルリリースは1990年だが、この曲はすでに1987年のアルバム「KOMEGUNY」に収録されていた。大学のゼミ合宿で宴会の後、友人と1つのウォークマンで「浪漫飛行」を聴いた瞬間の高揚感。あの印象的すぎるイントロとの出会い方としては、最高のシチュエーションではないだろうか。

 80年代のヒット曲には、何がなんでも人々の心をつかんでやろうという気概があった。著者は本書で紹介した40曲について「エバーグリーン」であることを共通点だとする。時代が経っても色褪せない曲にしぼって書かれた音楽評は、きっとダウンロード世代の胸にも響くはずだ。

文=石塚就一