コラーゲンを摂ってもプルプル肌にはならない? 人間の体はすごくて情けない謎のシステム

健康・美容

公開日:2018/12/25

『想定外の人体解剖学』(坂井建雄/エイ出版社)

 京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)名誉教授がノーベル医学生理学賞を受賞したニュースが流れると、すぐさま医療関係者や患者団体らが警告を発する事態となった。本庶氏の発見により開発された、がんの治療薬であり免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)が「免疫療法」と報道されたからだ。確かに作用機序は、がん細胞を攻撃するはずの免疫細胞ががんに騙されて攻撃をやめてしまうのを再開させるから、免疫治療には違いない。しかし、世にはびこるインチキ医療の中には、医学的なエビデンスの無いものを「免疫療法」と称しているケースが有り、恐ろしいことに中には本職の医師がその治療を患者に勧めている場合もあるとして、同業の医師がSNSなどで注意を促している。騙されないためには正しい医学知識が必要なわけだけれど、本格的な勉強など私たち一般人には荷が重いと思われるだろう。でも大丈夫。この『想定外の人体解剖学』(坂井建雄/エイ出版社)を読んで断片的にでも人体の仕組みを知れば、だいぶ危険を回避できるはずだ。

 著者の坂井建雄氏は順天堂大学医学部教授で、これまでにも解剖学に関する多くの著書を世に出してきた。今回は学問的なことよりも、それぞれの臓器や器官の「弱点や情けない部分」にスポットを当て、ちょっとした雑学といった読みやすい内容となっている。

 免疫に関する項目を見てみると「敵の弱点を知らないと戦えない」と解説されていて、初めて戦う相手には負けてしまうこともあるものの、免疫細胞は敵の特徴を覚えておき、次の戦いに備えて武器となる抗体をつくっておくという。この仕組みを利用しているのがワクチンで、ワクチンを接種するのは危険だという人もいるけれど、著者は「予防接種はとても大切なことと言えますね」と述べている。

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 サプリメントや健康食品を摂る人もまた、宣伝に踊らされないよう要注意。例えば、美肌効果が期待されるコラーゲン。本書には、「美肌のためにコラーゲンが大切というのは紛れもない事実です」と頼もしい言葉が載っているが、そのあとには残念なお知らせがある。というのも「とった栄養素は、そのままからだの中で使われるわけではありません」とのことで、コラーゲンを食べて肌がプルプルになるのは「気のせいということです」と述べている。確かに、コラーゲンが豊富だからと鶏皮を食べて鶏の肌が再現されても困る。

 そういえば、寒いときや緊張したときに毛根部の根本にある筋肉が収縮して毛が逆立つ「鳥肌」という現象があるけれど、それは進化の名残だそうだ。全身が毛で覆われている動物の場合、毛穴や汗が出る部分を閉じることで毛を逆立て、毛と毛の間に空気を取り入れからだを保温したり、からだを大きく見せて敵を威嚇したりすることに意味があるのに対して、人間は体毛が薄いため保温効果も無ければ大きく見せる役にも立たない。もはや「いらない機能」という次第。

 しかしながら、本書には人間のスゴイ機能も紹介されている。見落としがちの問題を「盲点」と呼ぶように、実際に人間の眼には「視神経乳頭」と呼ばれる部分があり、ここは神経線維が束になっているため、光をキャッチする視細胞というものが入り込む隙間が無い。つまり、たとえ視界にあっても光が届かないその部分に入る景色はやはり「見えない」はずなのだが、脳が「周囲の映像を元に勝手に補っている」という。

 巷には命にかかわるインチキ医療や、さまざまな健康法がはびこっており、危険や嘘を嗅ぎ分ける嗅覚が大事だ。ところが本書によれば、鼻腔の上にある嗅覚器といわれるセンサーは、左右交互に働いているという。そうやって片方を休ませないと疲れて感覚が鈍くなり、危険なニオイが分からなくなるからなのだとか。初めは疑っていても、説明を聞いているうちに騙されて取り込まれてしまうことになるかもしれない。そういうときには一度距離を置いて、本書のことを思い出してもらいたい。

 ところで、最後のほうのページに「もしも私たちが焼き鳥になったら……」というタイトルの人体解剖図のイラストが載っていて、眺めていたらお腹が空いてしまった。単純な反応をしてしまうのは、私の脳が情けないのか。

文=清水銀嶺