デリヘル嬢を乗せ夜の闇を駆けるデリヘルドライバー。彼らが語る“夜の世界の真実”

社会

公開日:2018/12/22

『デリヘルドライバー』(東良美季/駒草出版)

「デリヘル(デリバリーヘルス)」とは女性を客の元へと派遣し、性的サービスを行う派遣型のファッションヘルス。2000年頃に誕生したデリヘルという風俗は、拡散し可視化できないほどに巨大化した。しかし、その実態は深い闇に包まれたままである。なぜなら、デリヘル嬢は密室で客にサービスを行うため、本番強要や集団レイプといった事件に見舞われてしまうこともあるからだ。

 そんな彼女たちの内情を誰よりも近くで感じているのが、デリヘルドライバーたち。『デリヘルドライバー』(東良美季/駒草出版)には、さまざまな人生の道のりを経て、この職業にたどり着いた9人の人生が収録されている。

 タクシードライバーとして働くには二種免許が必要だ。社内で地理試験や接客講習も受けなければならないため、正式に採用されるまでに少なくとも1カ月はかかる。だが、デリヘルドライバーは即日採用され、経歴を聞かれることもない。ヤクザや闇金、元女性、プッシャーなどの込み入った経歴を持つ人でも働きやすい。

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 性風俗は「稼ぎたい」という女の希望と「いい女と出会えるかもしれない」という男の妄想に支えられ、増殖し続けている。そのため、デリヘルドライバーという職は、自分の生活を支えていくための「男の最後の砦」なのかもしれない。欲望にまみれた夜の中でひとり、たしかな現実を見つめてハンドルを握る彼らはなぜ「最後の砦」にたどりつき、静かな夜の街で何を見ているのだろうか…。

■期待する男とリアリストな風俗嬢の隙間で生きる「デリヘルドライバー」

 風俗で遊ぶ時、「かわいい子がいいな」「真面目で遊んでいなさそうな子に当たりたい」と考える男性は多いだろう。中には、「あわよくば、恋愛に発展するかも…」と淡い期待を持つ方もいるかもしれない。

 しかし、風俗嬢は男性が思っているよりも徹底したリアリストであり、誰もが自分の身の程を知っている。美人は若さと美に価値があると分かっているため、高い店で働く。そして、そうでない嬢はきれいな写真を撮ってもらい、サービスや愛想の良さで指名を稼ぐ。夜の世界で働く女性たちはこうして、想像以上に賢く現実社会を生きているのだ。

 そんな彼女たちが秘めた孤独を感じつつ、客の男の欲望に応えるべく、誰も知らない夜の街を駆け抜ける。それがデリヘルドライバーという職業だ。本書に登場する、かつてアダルト誌の編集者を務め、「出会い喫茶」やサイバー型性風俗「ライブチャット」の世界も見てきた清瀬文彦(仮名・33歳)は、デリヘルドライバー時代の体験談をこう語る。

“この半径数百メートルの中では俺以外、きっとほとんどの人間が眠っているんだろうなと考えた。起きているのはさっき送り届けたデリヘル嬢と客だけで、その二人もプレイという名の別世界に入り込んでいる。それは編集者時代、会社の車の中で泣いていた暗闇とは、まったく違った夜だった。”

 デリヘルドライバーは一見、とても特殊な職種のように思えるかもしれない。だが、彼らは人生につまずきながらも、現実社会の中で額に汗を流しながら働いている。それは日の光が照らす中で働く人々と同じだ。「今」という瞬間を心に刻みながら、懸命に生きているのだ。

 満たされることのない東京の闇を切り裂く9人のデリヘルドライバー。彼らの人生は、寝静まった街でしか見られない“夜の住人たちの人生”を教えてくれる。男たちの欲望と女たちの切ない思いが作り上げる夜の世界の中で、人生に疲れたデリヘルドライバーたちはどんな想いと向き合いながら、ハンドルを握っているのだろうか。

文=古川諭香